03.鎮魂者の街
天気は快晴。青く澄みわたった空は、幸先の良さを示しているようだ。
ワフの背中にまたがり夜通し駆け抜け徹夜だが、問題はない。むしろ絶好調な気さえする。
はやる気持ちをおさえながら目的地の関門を抜けると、入り口の広場にたどり着く。そこには綺麗な街並みが広がっていた。
さすが新設なだけあり、街並みが統一されている。低層の建物に整備された広い道路。うん、なかなかに良いのでは? いろいろ気になるところはあるが、最大の目的であるマッチングサービスを受けににいかねばならない。
広場を見渡せば、人だかりのある場所に大きな案内図が設置されていた。順番を待つのも時間がおしいので、俺は「ワフ」と呼んで合図する。すぐに一筋の風とともに現れたワフ。その背中にまたがり宙を駆けると、人々の頭上から案内図をながめた。
おお、と感嘆の声が聞こえるが数は少ない。さすが鎮魂者の街、珍しい精霊獣を見ても落ち着いている。
それよりも気になることがある。若い女性がそこそこいる。安っぽい装備をみるに初心者っぽさが滲み出ているが、それがまた良い。マッチングサービスも期待できそうだ。
つい人をながめてしまったが、ここで時間をくってもしかたがない。俺は案内図から目的地を見つけると、ワフに乗ったまま目的地へと駆けぬけた。
◆◆◆◆
「ようこそ、マッチング会場へ!」
目的の場所へたどり着くと、入り口近くで待機していた職員から元気な声で迎えられた。
「ご利用ははじめてでしょうか?」
頷くと、奥のカウンターに案内された。長いカウンターでは同じ制服を着た多くの職員が配置され、それぞれ客の対応をしている。鎮魂者組合みたいだなと思っていると、俺の前にも手の空いた職員が現れた。
そこからはマッチングサービスの説明をうけた。
最初にプロフィールや実績、パーティへの希望をアンケート用紙に記入する。その情報をもとに職員によって集計され、似た条件の者たちとマッチング会場に入る手順だ。
マッチング会場では、気になる相手を指名して個室で会話する時間があるそうだ。やはり初対面だと緊張するし、まわりの目も気になる。個室面談とは、なかなか客の心を掴むのが上手いと思う。
さて、俺の目の前にはアンケート用紙がある。基本的には選択肢が記入されているので、チェックボックスを選んでいけばいい簡単仕様だ。ほとんど記入し終わったが、最後に一番大事な項目が残っている。パーティへの希望の優先順位だ。
もちろん女性にモテたい、女性と付き合いたいということは大前提ではあるが、俺には二つの選択肢がある。
ハイランクパーティを結成して今までのようにモテることを目指すか、未来の伴侶を探して女性とマッチングするか。なかなか決めきれず、俺は両方に第一希望のマークをつけると、職員にそれを手渡した。
「それでは、これから集計を行いますので、十二時になりましたら再度おこしください」
その言葉とともに青色の札を受け取り、俺はマッチング会場をあとにした。
しばらく時間を潰すため、ふらふらと街を歩くことにする。
マッチング会場の近くには、装備区画があり外から見ているだけでもなかなかに面白い。店先には各店ガラスケースがあり、その店を象徴する商品が飾られている。
剣や鎧は必要ないが見ている分には楽しいし、おしゃれな革細工なんかは、つい欲しくなってしまう。そうして見ていたとき、俺はとんでもないものを見つけてしまった。
ビキニアーマー。
胸の膨らみにあわせて乳首の位置を主張する、トンデモ装備だ。ほとんど肌がでるような紙装甲が、悪霊討伐に向いているわけもない。精霊はその本質から実体を持たないが、悪霊は違う。だが俺にはわかる。
これは――――夜の装備。
いつかは俺も、これを着てくれる相手を手に入れたいものだ。
俺はまた歩きだし、店先や街中を眺めた。
時間が近づくにつれ、だんだんと緊張してくる。しかしこれは、良い緊張だ。気合いを入れるため胸をドンと強く叩くと、俺はマッチング会場へ足を向けた。
◆◆◆◆
施設について、受付の職員に青色の札を渡す。
今度はカウンターではなく、左の通路を案内された。通路から少し歩き、突き当たりの両開きの扉を開けると、すでに広間には鎮魂者たちが集まっていた。どうやら俺が最後だったようだ。俺の案内をした職員が、そのまま司会をはじめた。
「みなさま、このたびはサービスをご利用いただきありがとうございます。しばらくご歓談の時間となりますので、自由に会話をお楽しみください」
その言葉を合図に、それぞれが近くの人と会話をはじめる。俺は広間のなかを見まわして、あまりの衝撃に絶句した。
まさか、こんなところにいるはずない。鼓動が早くなっていく。俺は一人の女性から目が離せなかった。
なぜ、ビキニアーマーを着ているんだ!!
臨戦態勢ばっちりじゃないか!
はち切れんばかりの豊満な乳がビキニから今にもこぼれ落ちそうだ。引き締まったくびれからは想像しがたい大きな尻はなんとも言えない。実にけしからん。いいぞ、もっとやれ。
だが、あまり不躾な視線を送っても失礼だろう。再度部屋の様子を観察すると、俺をいれて十五人ほど鎮魂者がいた。そのうち五人が女性。しかも全員可愛い。このうちの誰かとパーティを組めるのだろうか。いや、もしかしたら全員とという可能性もある。さあ、最初に誰に声をかけるべきか。顔で選ぶならあのポニーテールの子だが、鎮魂者視点だとローブを肩にかけた茶髪の子はセンスがありそうだ。
そんなことを考えていると、背後から声をかけられた。
「ライトさん!」
振り向くと、キラキラとした長髪のイケメンが立ってる。
「まさかライトさんもマッチングしにきてたなんて!」
「えーっと……」
彼は俺を知っているようだが、俺は知らない。男には興味ないし。
「あ、俺はライトさんと同じ地区でパーティ組んでたんです。まだ銀級なんですけど、ライトさんの活躍は知ってます! 先月の雑誌も買いました!」
「ああ、ありがとう」
「ライトさんと組めるって思ったら、すげーテンションあがってきました! 指名するんで、よろしくお願いします!」
俺はお前を指名しないけどな。長身の年下爽やかイケメンが横にいたら、モテるもんもモテないだろう。大人な俺は笑顔でやり過ごすと、職員の声が広間に響いた。
「大変申し訳ありません。こちらの都合で時間がおしておりまして、ご歓談の途中ではありますが、個別の面談に移らさせていただきます」
まじかよ、早すぎる。女の子の誰とも話していないのに。もっと早く到着すべきだったか。
俺の後悔もむなしく、職員からアンケートを手渡される。
「気になるかたのお名前を二つほどご記入いただき職員へお渡しください。お名前がわからない場合は、容姿の特徴でもけっこうです」
文句を言っても進行は変わらないだろうし、俺はおとなしくアンケートに記入した。ポニーテールの子とローブを着た茶髪の子と書く。ビキニアーマーのダイナマイトナイスバディはすでにパーティ指名決定だ。個別で話す必要もない。
アンケートを手渡すと、部屋の奥の壁に、八つの扉があることに気づいた。どうやら、あっちが個室につながっているようだ。
集計中に女の子に声をかけようと思ったが、すぐに真ん中の個室へと案内された。