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転生人形クロエ  作者: 黒砂糖
第三章
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第12話

  「父に代わり謝罪します……本当に、申し訳ありませんでした」


 身形のいい赤毛の男が、そう言って頭を下げる。

 

 (なぜ、こんなことになる……)


 イザークは恨めし気に横にいるシアンに目を向けた。


 彼が連れてきた先はパターソン家の屋敷で、しかも商会の現会長であるルーカス・パターソンがいた。イザークがリシューから来たことを知れば当然、例の騒動にも触れなければならなくなる。そして今に至る。


 刺客を雇ったのは、あくまでの父であるヘンリー・パターソンなので、イザークとしては彼を責めても仕方がない。


 「忙しさにかまけ、義弟の問題を棚あげにしていたのは事実です。思い詰めた父にも気付けず......私にも責任はあります」


 そんな負い目があったからこそ、サムウェルと闇商人を繋げる証拠を処分したのだろう。事が明るみになれば、全てが水泡に帰してしまうのだから。


  「ったく......あんたは真面目すぎんだよ」


 がしがしと頭をかきながら、呆れたようにシアンが言う。

 世の中は綺麗事ばかりではない。それはヴーレタール王国出身の二人は身に染みて経験している。


  「こうやってバカ正直に打ち明けちまうし。俺らがバラすとか考えねーのか?」


 「君がそういう手段を嫌っているのは知っています。そこの彼も、君が信頼している友人なら大丈夫だろうと判断しました」


 それに、とルーカスは続ける。


 「清廉潔白と言い難いとはいえ、巻き込んでしまったからには誠意を見せるのが、商人としての私の矜持です」


 そのセリフだけは、ルーカスの強い意志が込められていた。さすがのシアンもそれ以上は何も言えなかった。


 「それで、おまえの言う落ち着いて話せる場所というのはここか?」


 沈黙を断ち切るように、イザークが口を開く。


 「おう。ここなら身内しかいねーし、邪魔も入らねーからな......って、そうそう! 忘れねーうちに見せとくもんがあんだよ」


 シアンはそう返した後、ルーカスに向き直る。懐から丸めた布を取り出すと、執務机の上で広げる。


 「これは、針ですか?」


 先ほどの裏路地で、髭面の男が用いたものだ。いつのまにか回収していたらしい。


 「気を付けろよ? 毒が塗ってあるからな」


 「毒?」


 「さっきこいつを襲った野郎が使ったもんだぜ。あんたの方で、どんな毒か調べられねーか?」


 「毒の種類ですか......? 分かりました。お預かりします」


 頷いて、ルーカスは慎重な手つきで布を包み直す。


 「シアン、そろそろ説明を頼む」


 ルーカスとの関係も含め、『相棒』の今についてイザークは知りたかった。


 「急かすなって。順番に話すからよ」


 そうしてシアンが語るところによると二年前、彼は復讐のために一度ヴーレタールに戻ったらしい。だがその際フラトニス家の子供たちと戦闘になり、右足を負傷したという。


 『子供たち』は、もともとフラトニス家が引き取り育てた孤児たちである。『魔法の国』である東のリヴェット王国に対抗するため、反乱分子の排除や国外での工作活動を主としている。

 特徴として薬物投与、人体改造、過酷な訓練によって身に付けた『力』、それぞれ瞳の色に対応した呼び名を与えられていることだ。


 「俺らがガキのとき会った『ガーネット』、『ペリドット』もそうだぜ」


 「ああ。覚えている」


 『ガーネット』はイザークの左眼を奪った少女で、彼にとって忘れようもない苦い記憶だ。


 フラトニス家に引き取られた子供が全員、生き延びられるとは限らない。中には命を落とす子供もいる。アイリーンは「こんな綺麗な眼をしているのに、もったいない」と死体から両眼を抉り、加工したものを宝石箱にしまっているという。死体はその後、床の開口部から地下へ遺棄される。

 昔、イザークとシアンが地下通路の部屋で見た死体の山は、そうして築かれたものだったのだ。


 「話を戻すけどよ、利き足をやっちまった以上あんなバケモノどもの相手はできねー。つっても諦めるわけにもいかねーから、今は国内外から情報集めて、付け入る隙を探してるところだぜ」


 他にはヴーレタール王国からの密航船も手配しているという。ルーカスは知っていたのかと目をやると、


 「私が聞いたときには、もう退くに退けない状態でした。シアンの情報に助けられた恩もあり、無下には出来ませんから」


 と、額に手を当てた。少しばかり気の毒になってくる。


 「実際、フラトニス家にも俺の仲間が潜入してるぜ。内部情報はそいつから仕入れてんだ」


 「危険ではないのか?」


 というイザークに、


 「覚悟の上だぜ。俺も含めてな」


 そんなシアンの表情は、彼には珍しく真剣そのものだった。


 「……ところで先程、オレに用があると言っていなかったか?」


 重い雰囲気になってきたので、イザークは話題を変えた。


 「おう。おまえ仕事探してるだろ? ちょっとばかし頼みがあってな、おまえが適任なんだよ」


 そうしてシアンは、これまでの経緯を語って聞かせるのだった。


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