第12話
「父に代わり謝罪します……本当に、申し訳ありませんでした」
身形のいい赤毛の男が、そう言って頭を下げる。
(なぜ、こんなことになる……)
イザークは恨めし気に横にいるシアンに目を向けた。
彼が連れてきた先はパターソン家の屋敷で、しかも商会の現会長であるルーカス・パターソンがいた。イザークがリシューから来たことを知れば当然、例の騒動にも触れなければならなくなる。そして今に至る。
刺客を雇ったのは、あくまでの父であるヘンリー・パターソンなので、イザークとしては彼を責めても仕方がない。
「忙しさにかまけ、義弟の問題を棚あげにしていたのは事実です。思い詰めた父にも気付けず......私にも責任はあります」
そんな負い目があったからこそ、サムウェルと闇商人を繋げる証拠を処分したのだろう。事が明るみになれば、全てが水泡に帰してしまうのだから。
「ったく......あんたは真面目すぎんだよ」
がしがしと頭をかきながら、呆れたようにシアンが言う。
世の中は綺麗事ばかりではない。それはヴーレタール王国出身の二人は身に染みて経験している。
「こうやってバカ正直に打ち明けちまうし。俺らがバラすとか考えねーのか?」
「君がそういう手段を嫌っているのは知っています。そこの彼も、君が信頼している友人なら大丈夫だろうと判断しました」
それに、とルーカスは続ける。
「清廉潔白と言い難いとはいえ、巻き込んでしまったからには誠意を見せるのが、商人としての私の矜持です」
そのセリフだけは、ルーカスの強い意志が込められていた。さすがのシアンもそれ以上は何も言えなかった。
「それで、おまえの言う落ち着いて話せる場所というのはここか?」
沈黙を断ち切るように、イザークが口を開く。
「おう。ここなら身内しかいねーし、邪魔も入らねーからな......って、そうそう! 忘れねーうちに見せとくもんがあんだよ」
シアンはそう返した後、ルーカスに向き直る。懐から丸めた布を取り出すと、執務机の上で広げる。
「これは、針ですか?」
先ほどの裏路地で、髭面の男が用いたものだ。いつのまにか回収していたらしい。
「気を付けろよ? 毒が塗ってあるからな」
「毒?」
「さっきこいつを襲った野郎が使ったもんだぜ。あんたの方で、どんな毒か調べられねーか?」
「毒の種類ですか......? 分かりました。お預かりします」
頷いて、ルーカスは慎重な手つきで布を包み直す。
「シアン、そろそろ説明を頼む」
ルーカスとの関係も含め、『相棒』の今についてイザークは知りたかった。
「急かすなって。順番に話すからよ」
そうしてシアンが語るところによると二年前、彼は復讐のために一度ヴーレタールに戻ったらしい。だがその際フラトニス家の子供たちと戦闘になり、右足を負傷したという。
『子供たち』は、もともとフラトニス家が引き取り育てた孤児たちである。『魔法の国』である東のリヴェット王国に対抗するため、反乱分子の排除や国外での工作活動を主としている。
特徴として薬物投与、人体改造、過酷な訓練によって身に付けた『力』、それぞれ瞳の色に対応した呼び名を与えられていることだ。
「俺らがガキのとき会った『ガーネット』、『ペリドット』もそうだぜ」
「ああ。覚えている」
『ガーネット』はイザークの左眼を奪った少女で、彼にとって忘れようもない苦い記憶だ。
フラトニス家に引き取られた子供が全員、生き延びられるとは限らない。中には命を落とす子供もいる。アイリーンは「こんな綺麗な眼をしているのに、もったいない」と死体から両眼を抉り、加工したものを宝石箱にしまっているという。死体はその後、床の開口部から地下へ遺棄される。
昔、イザークとシアンが地下通路の部屋で見た死体の山は、そうして築かれたものだったのだ。
「話を戻すけどよ、利き足をやっちまった以上あんなバケモノどもの相手はできねー。つっても諦めるわけにもいかねーから、今は国内外から情報集めて、付け入る隙を探してるところだぜ」
他にはヴーレタール王国からの密航船も手配しているという。ルーカスは知っていたのかと目をやると、
「私が聞いたときには、もう退くに退けない状態でした。シアンの情報に助けられた恩もあり、無下には出来ませんから」
と、額に手を当てた。少しばかり気の毒になってくる。
「実際、フラトニス家にも俺の仲間が潜入してるぜ。内部情報はそいつから仕入れてんだ」
「危険ではないのか?」
というイザークに、
「覚悟の上だぜ。俺も含めてな」
そんなシアンの表情は、彼には珍しく真剣そのものだった。
「……ところで先程、オレに用があると言っていなかったか?」
重い雰囲気になってきたので、イザークは話題を変えた。
「おう。おまえ仕事探してるだろ? ちょっとばかし頼みがあってな、おまえが適任なんだよ」
そうしてシアンは、これまでの経緯を語って聞かせるのだった。




