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転生人形クロエ  作者: 黒砂糖
第三章
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第10話

 モニカとメラニーの話は、ルチアのことからグレンの弟子たちへと移った。

 グレン・シャーウッドは生前、三人の弟子をとっていた。そんな弟子の一人が今、目の前にいるメラニー・ランズデールだ。

 では他の二人の弟子はどんな人物で、今どこで何をしているのか、気になるところである。

 メラニーによると、二人の名前はヒューイ・バウズマンにアンヌ・リードというらしい。


 「二人は幼馴染みって話だよ。アタシより一回り年下で、筋も良くて将来有望でね。弟子入りした理由こそ不純だったけど」


 「不純?」


 「ヒューイはルチアさん、アンヌは師匠のグレンにそれぞれ惚れていてね。とはいっても関係を持ちたいとかじゃなく、出来るだけ多く接する機会があればとか、そんな感じだったよ」


 「なるほど......」


「でもいざ修行が始まれば、人形作りの魅力に取り憑かれたようでね。口実のはずが本気になって、そりゃ懸命に励んでいたよ」


 当時のことを思い出したのか、メラニーは可笑しそうにふふっと笑った。

 メラニーは彼らに先んじて独立したが、後になって届いた手紙には無事に修行を終え、故郷の街で工房を構えたと書かれていた。


 「二人は結婚して子供も産まれて......一度この店にも家族で来てくれたよ。子供も可愛い娘さんでね。両親の後を継ぐって意気込んでいたよ。それもずいぶん前の話だけど。今も元気にやってるかねぇ......」


 そうメラニーの昔話を聞いているうち、ソフィーとミアが戻ってきた。モニカたちは帰っていき、後は店番のタニスと店主であり人形師のメラニー、そしてクロエだけとなった。

 メラニーはクロエを抱えて二階に上がる。扉を開いた先は思った通り、工房になっている。さっそく作業にとりかかるらしい。


 「よし......と。腕をまるごと交換ねぇ。これに馴染む材料がなければ、買ってこないと」


 作業台を前に腰かけた途端、クロエを見ながらぶつぶつと喋り出す。


 「ま、どうってことないけどさ。アタシはあの歴代一にして最高の人形師、グレン・シャーウッド......の弟子だからねぇ」


 「............」


 「モデルはルチアさんの孫娘って話だけど、こんなに似るもんかねぇ? 本人の幼少期って方がまだ納得できるけど」


 「............」


 「ルチアさんの生まれ変わりとか、そんなあり得ない想像すらしたくなるくらいさ」


 「............」


「とはいえ世の中、不思議なことはいくらでもあるもんだ......アンタもそう思わないかい?」


 (......は?)


 まさか気付かれたのか? そんなわけはない。クロエは怪しい素振りは一切していないはずだ。


 「......なんて人形に話しかけたところで反応があるわけもなし。あったらあったで面白いけどねぇ。さすがに非現実的ってもんさ」


(……バレてない? 本当に?)


 もしクロエに心臓があれば、バクバクと激しく鼓動を打っているところだ。

 

 (怖い......この人、怖い......)


 ただの大きな独り言なのか、それとも揺さぶりをかけてボロを出させようといるのか――どちらとも取れ、何を考えているのか分からないのが恐ろしかった。







 メラニー・ランズデールの頭にあったのは、ただ一つの疑問だった。

 とはいえそれは人形師としての勘によるもので、勘というのは外れることもある。

 彼女が注目したのは、見せられた人形の破損箇所だ。転んだ拍子に腕が壊れたということだが、それにしてもどうも妙だ。特に関節部分の亀裂――片腕によほど衝撃が集中しなければ、あんな風にはならない。まるで地面に手をつき、持ち主を庇おうとしたかのような――。

 もちろん常識的に考えて、そんなことはありえない。人形が意思を持つ――魂が宿る、などというのは物語の中にしか存在しない。


 (『魂を移し替える魔法』なんてもんが、もしあったとしたら……妄想するだけなら楽しいけどねぇ)


 そう、ただの妄想だ。そんな神の御業に等しいレベルの魔法を扱えるリヴェット人がハローラン王国にいる――もしくはいたことを前提とした、ただの妄想に過ぎない。


 (聖女、と呼ばれる者くらいだろうねぇ……そんなことができそうなのは)


 自分で考えて、メラニーは苦笑する。

 それこそ演劇や小説――物語の中にしか存在しない人物だろう。

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