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転生人形クロエ  作者: 黒砂糖
第三章
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第9話

 モニカたちと別行動したイザークは、街の一角にある掲示板の前にいた。ここには多種多様な仕事の依頼が毎日、張り出されている。

 

王都に着いたイザークがまず最初に行ったのは、仕事を見つけることだった。正直、ソフィーの件でキャンベル家から貰った報酬は充分ではない。焼けた店の改築費用に回してもらうため、遠慮したというのが本当のところである。だからこうして、モニカたちには内緒で何か実入りのいい依頼でもこなそうと考えたのだ。

 だが目の前の掲示板に、目ぼしい依頼はほとんどなかった。朝から仕事を求める人々が集まるため、単純にイザークが遅すぎたのだ。


 とはいえ予想していたことではあり、今日のところは諦めてまた明日の朝早くに来ようと決めた。手持無沙汰なのは性に合わないが。


「…………?」


 視線を感じた。誰かがこちらを見ている。気配から敵意は感じないので、恨みの線はなさそうだ。

 だとすると見当がつかない。知人なら声をかけてくればいい。王都で犬の獣人が珍しいということもありえない。いったい何者だろうか?

 やがて気配が消えた。視線の主が立ち去ったようだ。

 いろいろ遭ったせいで、警戒しすぎなのかも知れない。イザークは掲示板の前を離れた。これからどう時間を潰すか考えながら。







 パターソン商会現会長、ルーカス・パターソンが私室の扉を開けると、すでに先客がいた。水色の髪の男が椅子に背中を預け、眠りこけている。仕事柄、身形に気を遣っているルーカスとは対照的に、着崩した装いをしている。


 「ぐかー......ぐごー......」


 盛大に鼾をかき、爆睡している。なぜここにいるのか? 使用人は何をしているのか? 応接室に案内しなかったのか? など疑問は尽きない。 


 (これでは、誰が部屋の主か分かりませんね……)


 呆れていると、ようやく男が目を覚ました。


 「ふぁ......よく寝たぜ。ん? あんた、いつからいたんだ?」


 「それはこちらのセリフですよ、シアン。私に何か用でも?」


 シアンはその馴れ馴れしい――良く言えば人懐こい性格ゆえか顔が広い。つまりルーカスにとって《情報屋》としての側面がある。商人にとって、情報は貴重だ。

 彼がこうして屋敷を訪れることなど、滅多にない。何かこちらに報せたいことがあるのだろう。


「《疾風の爪》の件に決まってんだろ。あんたの睨んだとおり、やつら闇商人と繋がってるぜ」


 盗賊団――《疾風の爪》は目下、ルーカスが頭を悩ませている問題の一つだ。これまでに多くの商人が被害に遭っているため、彼としてもただ手をこまねいているわけにはいかない。

 加えて闇商人はルーカスの義弟、サムウェルが生前において魔草を仕入れていた相手でもある。信頼が命の商人としては致命的な醜聞だ。サムウェルの死後、関係を示す証拠を処分したものの不安は残る。

 なのでルーカスはシアンの情報を頼りに、彼らの動向を調べていた。


 「次の取引場所と時間さえ分かればいいんですが......」


 そうすればあとは衛兵に任せ、取引現場を抑えてもらう。盗賊団に闇商人と二つの問題を解決でき、一石二鳥だ。


 「けどな、その計画には一つ問題があんだよ」


 言って、シアンは人差し指を立ててみせる。


 「それはよ、《疾風の爪》が亜人だけで構成された盗賊団ってとこだぜ」


 亜人は獣人族や竜人族といった、人間とは異なる特徴を持つ種族のことだ。


 「どいつもこいつも迫害や差別に遭った亜人らでよ。人間に恨みを持ってやがるし、一筋縄じゃいかねーぜ」


 「そうなると、誰かに頼むしかありませんね。腕が立ち、お金に困っていそうな亜人を捜して......」


 「もっと慎重になれよ。雇えりゃ誰でもいいわけじゃねーぞ? 親父さんと同じ轍を踏む気か?」


 「......痛いところを突きますね」


 ルーカスの実父であるヘンリーは、義理の息子サムウェルの悪行に心を痛めていた。彼を弟子にした調香師の死、そして闇商人との繋がりについても確認済みだ。

 すべては養子に迎えた己に責任がある。だから己が始末をつけるべきだ――そう、苦渋の決断を下した。

 だが、それから雇った相手が問題だった。金のために殺しを厭わない男だったが、顔を見た幼い子供の命を狙い、ついには街中に火を放つ騒ぎを起こした。

 その報せを知った父は精神を病み、今も床に臥せっている。


 「では、君の知り合いにいませんか? 信用できる亜人は?」


 「おいおい! いくら俺でもそんな都合良いやつなんて……あ」


 「何ですか? 心当たりでも?」


 「いやここに来る途中で、昔つるんでた獣人に似たやつを見かけただけだぜ」


 「声はかけなかったんですか?」


 「見た目に面影はある気はすんだが、雰囲気が変わりすぎててよ。人違いだったら恥ずかしいじゃねーか」


 「君に恥ずかしいという概念があるなんて、意外ですね」


 「どういう意味だそりゃ......まぁそういうわけだから、期待はすんなよ?」


 「分かりました。では確認のほど、よろしくお願いします」


 「おう。用は済んだし俺は行くぜ。腹減ったから飯食いてーんだ」


 手をひらひらと振り、シアンは右足を引き摺りながら部屋を出て行った。


 「自由すぎますね本当に……振り回されるこちらの身にもなってほしいものです」


 ルーカスはぼそりと呟く。昔からあんな性格なのだろうか? だとしたら、旧友というその獣人も苦労しただだろう。

 己の椅子に座り、ルーカスは深く溜め息を漏らした。

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