2.いいんだ これでいいんだ
むかし あるところに 太吉というおとこの子がいました。
太吉のいえはびんぼうで 太吉はむらのこどもたちのなかでいちばんやせていました。
あるひ 太吉のおっとうが
「ちょいと となりむらまで いこう」
といって 太吉をつれて むらからでました。
となりむらは すごくとおくにあるのを太吉はしっています。きっと とちゅうでひがくれて やけんにおそわれてしまうでしょう。太吉はしんぱいになって おっとうにききました。
「おっとう おっとう。てっぽう もたなくて いいのかい?」
おっとうは 太吉のほうをみようともせず
「いいんだ これでいいんだ」
といいました。
おっとうがいうなら だいじょうぶなんだろうと 太吉はおもいました。
ふたりは やまのなかを どんどんあるきます。
わかれみちに やってきました。
いつも となりむらにいくときは ひだりのみちにすすむのに おっとうは みぎにすすみました。太吉は またしんぱいになって おっとうにききました。
「おっとう おっとう。となりむらは ひだりじゃないのかい?」
するとおっとうは
「いいんだ これでいいんだ」
と いいました。おっとうのかたが ちょっぴりふるえていました。
やがて 太吉のしらない やまのおくふかくまで きてしまいました 太吉はふあんで おっとうのうでを ぎゅっとつかんでいました。
おっとうは ふと たちどまると はじめて太吉のかおをみていいました。
「ちかくに けものがいないか みてくる。おまえは ここで まっていなさい」
おっとうは 太吉をおいて やみのなかにまぎれていきます。くらくて よくわかりませんでしたが、おっとうは ないていたようなきがしました。
おっとうも こわいのかな と太吉はおもいました。
しばらくまっても おっとうはもどってきません。
もうしばらくまっても おっとうはもどってきませんでした。
太吉はおおごえで
「おっとう おっとう」
とよびつづけました。やまは太吉のこえがひびくだけで しずかなままです。
でも おっとうには きこえていました。じぶんのせなかから
「おっとう おっとう」
とこえがするのを おっとうは しっかりきいていました。それでもおっとうは 太吉のところへはもどらず
「いいんだ これでいいんだ」
と すすりなきながら かえるのでした。
やけんが 太吉のこえを ききつけました。