98
店の開店時間が来た。
-98 女将の困りごと-
『人化』した大臣が屋台を訪れてから間もなく、店の開店を待ちに待っていた採掘場のゴブリンを中心とした常連たちが店に集まって来た。
渚(当時)「いらっしゃい、今日もいつもので良いかい?」
ゴブリン(当時)「おおきに、女将はんは全部覚えてくれとるけん嬉しいですわ。」
渚(当時)「こら、「女将」はやめろって何回も言ってんじゃないか。今度そう呼んだらただじゃおかないよ。」
平和な雰囲気に包まれる中、涙ながらに1杯の拉麺を食べ終えたロラーシュは改まった様子で渚に声をかけた。
ロラーシュ(当時)「渚さんでしたっけ・・・、私のお願いを聞き入れて頂けませんか?」
渚(当時)「あんた、唐突に何を言い出してんだい。」
ミスリルリザードの発言どころか、本人がそこにいたこと自体に驚きを隠せずにいた客たちは邪魔したら悪いと思ったのかその場から離れ始めた。
渚(当時)「あんた・・・、この辺りじゃ有名人なんだろう?そんな人が私なんかに何の用があるってんだい?」
ロラーシュ(当時)「私は貴女の作った1杯に惚れました。」
渚(当時)「へ?」
渚が経営している屋台を含めて「暴徒の鱗」はチェーン展開をしているので「渚自身の味」という訳では無いのだが、大臣にはそんなの関係ない様だ。
ロラーシュ(当時)「・・・して下さい。」
渚(当時)「あんた何言ってんだい、私は子持ちの未亡人だよ。」
ちゃんと聞こえなかったのか、プロポーズと勘違いした渚。
ロラーシュ(当時)「いや・・・、違うんです!!」
何とか訂正しようとする大臣、ただその行動は正しかったのだろうか。
渚(当時)「えっ?違うのかい?勘違いしちゃったじゃないか。」
阿久津と死に別れて年月が経過したからか、「男性」という物に飢えていたのではないかと推測される。
ロラーシュ(当時)「す・・・、すみません・・・。ただ私が惚れたのは拉麺の味なんです。」
この拉麵の味を作り出したのは渚ではなく元々の店主であるパルライとシューゴと思われるので今の台詞はこの2人に言うべきだと思われるが、現時点での大臣には関係無いのかもしれない。
渚(当時)「あんたの気持ちは嬉しいけどその言葉は1号車が通った時に言ってくれるかい?」
確かに、時間帯をずらしてではあるが確実にシューゴが乗る1号車も同じ場所を通るのでその時に申し出るのが最良ではなかろうか。
ロラーシュ(当時)「私はこの屋台で食べるこの味しか知りません・・・、だから!!」
渚(当時)「だから何だい!!!」
他の客もすっかりいなくなってしまったので渚は思い切って気持ちをぶつけてみた。
渚(当時)「あんたがはっきり言わないからここまで引っ張る事になっちゃたんだよ、ちゃんと聞くから言っておくれよ。」
ロラーシュ(当時)「いや・・・、だから・・・。」
さっきから伝えたい事は変わっていない。
ロラーシュ(当時)「弟子にして下さい!!」
渚(当時)「やっぱりかい・・、それは1号車の時に言ってくれなきゃ困るんだよ。」
どうやら大臣の本心は大分前から伝わっていた様だ。
ロラーシュ(当時)「駄目ですか?」
渚(当時)「私は弟子なんて取って無いの、勘弁して!!」
ロラーシュ(当時)「ここまで引っ張ったのにですか?」
こっちの台詞だ。