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女性の驚かせ癖はいつもの事なのだが・・・。
-97 女将を困らせた大臣-
突然聞こえて来た女性の声に数人が驚いてはいたが、この世界で(と言うよりこの女性においては)はよくある事なので冷静な人物がいた。
光「お母さん・・・、『瞬間移動』が使えるからって皆を驚かせるのはやめなってずっと言ってんじゃん・・・。」
そう、知らぬ間にやって来た女性の正体は相も変わらずピエロの様な性格を持つ光の母・赤江 渚だった。
好美「それで?何に困っているんですか?」
マンションの一番上にある自室の露天風呂で何度も経験しているのでもう慣れたのか、好美は冷静な顔をして渚の言葉の意味を聞き返した。
渚「いやぁ・・・、いつも通り屋台を走らせてダンラルタ王国で商売していた時なんだけどさ・・・。」
この宴が行われる約1ヶ月前の事、ダンラルタ王国の山中をいつも通り走っていた時だ。
渚(当時)「いつも思う事なんだけどね、四駆で無いとこの山を登るのは難しいね。元の世界でこのバンを買った時やっぱり二駆にしようか悩んだけど、四駆にして正解だったよ。キッチンや調理器具は相も変わらず思いから走るのに邪魔だねぇ、まぁ商売の為だから良いんだけどさ・・・。」
渚の運転するバンは商売をする場所であるダンラルタの採掘場の駐車場に到着した、いつも通りバックで駐車して客席となるテーブルや椅子を設置していると・・・。
男性客(当時)「すみません、もうすぐ開店ですか?」
腹を抱えた男性が1人、まさかこんな所をずっとうろついていたのだろうか。
渚(当時)「悪いね、まだ椅子とかを設置してからスープやお湯を温めないといけないから少し時間が掛かるんだ。」
男性客(当時)「時間はたっぷりありますので、開店まで待たせて頂けますか?」
渚(当時)「良いけど・・・、それまでどうするつもりだい?」
渚は辺りを見廻してみたが暇を潰せるような物は全くもって見当たらない。
男性客(当時)「えっと・・・、良かったらお手伝いさせて頂けませんか?」
渚(当時)「何言ってんのさ、お客さんに手伝って貰う訳にはいかないよ。」
しかし強情な男性客はほぼ無理くりだが手伝いを始めや、流石に渚本人にしか出来る訳が無い仕込みの作業を手伝わせる訳にはいかないが重い物を持つ位ならと本人の要望を聞き入れる事にした。
数分後、寸胴内のスープやお湯も十分に温まったので開店までの準備が整った。
渚(当時)「悪かったね、お礼に今日の食事代はサービスさせて貰うよ。何でも好きな物頼んでおくれ。」
給与として支払う程、金に余裕があった訳じゃ無かった渚は今自分に出来る最大の事を行う事にした。
男性客(当時)「では・・・、拉麺を1杯・・・。」
渚(当時)「何だい、そんなんで良いのかい?遠慮しなくても良いんだよ?」
男性客(当時)「いや・・・、たたえさえ無償だというのに我儘なんて言えませんよ。」
男性客はそう言いながらグラス1杯の水を片手に誰も座っていない席へと向かった、その光景を見た渚は定位置から麺を取り出して湯を沸かした寸胴へと投げ込んだ。ふんわりとしたそよ風が吹く中、麺が茹で上がったので渚は丼に秘伝の醤油ダレとスープを入れて湯切りした麺を絡ませていった。叉焼を中心とした具材を上に乗せて1杯の拉麺を仕上げていく・・・。
渚(当時)「はいよ、お礼の拉麺だよ。やっぱりお礼をしないままだと気が済まないから叉焼数枚と少しだけど炒飯をおまけさせて貰ったよ、あんたかなり腹を空かせていたみたいだからね。それで?あんた・・・、見た事が有る様な気がするけど誰だったかね・・・。」
男性客は料理を1口食べるとゆっくりと噛みしめていた・・・。
男性客(当時)「ロラーシュです・・・、あの・・・、お願いがあるんですが・・・。」
ロラーシュのお願いとは?




