91
美麗にとって新鮮過ぎるこの光景は少し怖すぎたのかも知れない。
-91 遺伝なの?-
転生者達が談笑を続け、オーナーシェフが行方を眩ませている中、女子高生達は空腹に身を任せて目の前の料理をおかずに白飯を進めていた。その光景を初めて見た美麗はあからさまにドン引きしていた。
美麗「好美、あの子達は大食いの選手なの?こっちの世界でもギャルは大食いな訳?」
とある大食いタレントの影響なのか、美麗の脳内では「ギャル(と言うより女子高生達全般)=大食い」という等式が生み出されていた様だ。
好美「おや・・・、そう言う訳じゃ無くて何と言うか・・・。肉親の影響ってやつ?」
確かに、ガルナスが大食いなのは光の影響(遺伝?)と思われるが、メラの場合はどうだろう。確かに本人の姉であるニクシーのピューアは大酒吞みであるが、それは未だに未成年であるメラの食欲に関係するのだろうか。
ただ好美の心中を察したのか、隣で秀斗と酒を酌み交わして顔を赤くしていた真希子が会話に入り込んでいた。
真希子「好美ちゃんったら何言ってんだい、簡単じゃないのさ。あの2人の実家がトンカツ屋だからだよ。」
真希子はピューアと出逢った時の事を思い出していた、ダンラルタ王国にある実家に帰ろうとしたが道に迷ってネフェテルサ王国に来てしまったピューアを愛車で送り届けた時の事だ。
真希子(当時)「本当にこの店なんだね、確かにテレビで言ってた店だよ。」
ピューア(当時)「昔はこんなに人気じゃ無かったんですけどね、少し前に父が独断で提供し始めた料理があっという間に有名になってしまった様で・・・。」
声(当時)「おい、そこで何してんだ。」
その時、後頭部を軽く搔きながら語る娘を見かけて声を掛けた男性がいた。一応『人化』していたが見た感じから種族はマーマンだろうか、そこは流石異世界と言える。男性は当日の残りの営業で使用する為に店に運び込もうとしていた米をゆっくりと降ろして続けた。
男性(当時)「おいお前、銀行員の仕事はどうした?まさか辛くなったから逃げて来たんじゃないだろうな。」
ピューア(当時)「と・・・、父ちゃん・・・。」
そう、声を掛けて来たのはこの店の店主でピューアの父であるメラルークであった。どうやら、貝塚学園を卒業してすぐの頃に親(と言うよりメラルーク個人)の反対を押し切って銀行員になると家を出た娘を未だに許してはいない様だ。
メラルーク(当時)「仕事が上手く行かないからってここに縋ろうなんて甘い考えを持つんじゃないぞ、それなりの覚悟があるから家を出たと父ちゃんは思っているんだから簡単に家の敷居を跨げると思うな。」
ピューア(当時)「待ってよ、いつもの里帰りじゃない。」
メラルーク(当時)「里帰りの時期には早すぎるだろう、それに他の人の迷惑をかけてまで帰って来る馬鹿がいるのか。」
ピューア(当時)「父ちゃん、この人は店の豚カツを食べに来ただけよ。言ったらお客さん、私はこの人のご厚意で車に乗せて頂いたの。」
メラルーク(当時)「そうだったのか・・・、うちのだらしない娘がすみません。ご覧の通り他所行きの服を持っていませんで、恥ずかしい位ですよ。」
真希子(当時)「何を仰っているんですか、娘さんが働いておられる銀行は3国内でも大企業の1つと言われる会社じゃないですか。ご立派に育った方だと思いますけど。」
メラルーク(当時)「お心遣いありがとうございます、娘を連れて来て下さったお礼にサービス致しますのでゆっくりしていって下さい。」
店内に入ると、数組の客が食事を楽しむ中で隅っこの席に座り空になったご飯茶碗を幾重にも重ねた横でひたすらに食事をする制服姿のマーメイドがいた。本人の手元にはまだ豚カツが数切れ残っている、どうやらまだおかわりをするつもりらしい。
そのマーメイドは里帰りをしたピューアに気付いて白飯を口に含んだまま声をかけた、どうやらそのマーメイドが妹のメラの様だ。
メラ(当時)「あ、お姉ちゃんだ。お帰りなさい。」
ピューア(当時)「あんた・・・、相変わらず食べてばっかじゃないの。何で太らないのか不思議で仕方ないよ、偶には運動も兼ねて店を手伝ったら?」
メラ(当時)「手伝ったからお腹空いちゃったの、これでもまだ少ない方なんだから。」
真希子(当時)「それが・・・、少ない方なのかい・・・?」
メラの隣には十数杯分の御飯茶碗が積まれていた、この後の皿洗いは確実に地獄だ。
出来れば自分でして欲しい。