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悪夢の再来か・・・。
-90 まさかね-
緊急事態に気付いたサブシェフは使っていなかった方の炊飯器に洗ったばかりの米を詰め込んだ後に水を流し込んで電源ボタンを押した、ただそれだけで間に合う訳も無く・・・。
ナルリス「まずいな・・・、炊飯器1台分の米が無くなろうとしているぞ。折角ロリューが用意してくれているのに早くも総崩れしてしまうかもしれないぞ!!」
ナルリスは注文を取り終えて手の空いていたミーレンを捕まえると、調理場の裏の事務所(あったか?)へと連れて行って両肩に手をやりながらお願いしようとした。
ミーレン「何してんの、いくらオーナーでも奥さんがいるじゃない!!私は不倫するような男は大嫌いなんだけど!!」
どうしてダーク・エルフがこういった思考に至ったかは分からなかったが、出逢ってからずっと光の事を想っていた吸血鬼が不倫をする為にウェイトレスを呼んだ訳が無い。
ナルリス「何馬鹿な事を言っているんだ、そんな訳が無いだろう!!」
ただ2人の会話は声が大きすぎてオーナーの嫁に聞こえていた様だ、客席から鬼の形相をした光が事務所へとやって来た(あれ?関係者以外立入禁止のはずだけど・・・、気にしないでおこう)。
光「ナル・・・、今聞こえて来たけど不倫ってどう言う事?」
ナルリス「違うんだ、光!!」
しかし、2人の姿はどう見てもラブホテルの前で繰り広げられる不倫の現場にしか見えなかった。
光「何よ、仕事の邪魔しちゃいけないと思って気を遣っていたのにそれを良い事にその女といい関係になっていた訳?!」
ミーレン「光ちゃん!!」
この店に雇われてからゆっくりとだが光と仲良くなっていったウェイトレスも必死に誤解を解こうとしていた、一先ず未だに両肩に乗っていたナルリスの手を振り払って・・・。
ミーレン「私、彼氏がいるの!!彼氏一筋なの!!不倫なんてあり得ないじゃない!!」
光「あっ、そうか。ははは・・・、私ったら勘違いしちゃってごめんね。」
ウェイトレスの言葉によりその場は一気に和んだが状況は未だに悪いままだ、ナルリスはミーレンを呼び出した本来の目的を実行する事にした。
ナルリス「ミーちゃん、俺が君をここに呼んだ理由はこれなんだ。」
ナルリスは事務所の奥に隠してある金庫から金の入った封筒を取り出してミーレンに渡した。
ミーレン「何?お小遣いでもくれる訳?丁度欲しいバッグがあったから嬉しいよ。」
封筒の中の金に興奮するウェイトレス、しかし世の中そんなに甘くはない。
ナルリス「何でこの空気でそうなるんだ、この金で買えるだけの炊飯器を買って来てくれ。出来るだけ大きい物な!!」
娘たちの暴動に備えるにはこれしかないと、光に黙って以前からこっそり貯めていたへそくりをミーレンに託したナルリス。空気を読み急いで家電屋へと向かったミーレンを見送った吸血鬼の後ろから睨みつける女性の姿が・・・。
光「ナル・・・、今のお金何?結構な大金だったよね・・・。」
背筋が凍る想いをしたナルリスは妻の機嫌を何とか直そうと必死だった。
ナルリス「えっと・・・、これはあれだよ。皆で旅行に行こうと貯めていたんだよ。」
嘘だ、これは今度ネフェテルサ王国公園にある競艇場で今度行われる大きなレースの為に貯めていた軍資金だ。
光「え?今まで新婚旅行も行った事無いのに今更何言ってんのかな・・・。」
ナルリス「い・・・、いや・・・、ぎゃあああああああ!!!!!」
それから数十分の間、ナルリスの姿を見た者はいなかったという・・・。
想像もしたくない・・・。