⑨
金を受け取った結愛は早速何処かへと出かけて行った。
-⑨ 物腰が低い上司-
罰金として支払っていた1億円が戻って来た結愛は昔からの夢を叶えようと一旦珠洲田自動車へと向かった、また商人兼商業者ギルドにて新たに事業でも始める様にも見えたが本人曰く別の用事、その上超個人的な物の様だ。
結愛「何だってオッサン?!スルサーティーは此処では買えないのかよ!!」
珠洲田「メーカーが違うから此処では売って無いんだよ、それに元々ウチは軽自動車が殆どだ。」
結愛の夢とは真希子とお揃いの車に乗って山を走る事だった、しかし本人にとって誤算がもう1つ。
真希子(念話)「結愛ちゃんったら忘れたのかい?私ゃもうスルサーティーには乗って無いんだよ、やだねぇ。」
どうやら結愛の好美と共通した忘れっぽい性格がまた出てしまったらしい、ただ店主には気になる点がもう1つあった。
珠洲田「なぁ、もし今日買えたとしてどうやって帰るつもりだったんだい?何処からどう考えても結愛ちゃん、呑んでるだろう。」
この世界でも飲酒運転はご法度となっている。
結愛「『アイテムボックス』に詰め込むから心配すんなって。」
珠洲田「心配なんかしてないし、改めて言わせて貰うけどウチでは買えないからね。」
大企業の社長が意気消沈する頃、好美はずっと吞み続けていた。その場に誰もいない事にも気づかずにずっと独り言を言っていたらしい。
好美「だーかーらー、私一人でここまで大きくした訳じゃ無いって言ってんじゃん。光さんと渚さん、そして結愛のお陰だっての!!」
きっと守に今までの自らの経験について語っているつもりだったのだろうが、彼氏はずっと別室で荷解きをしていた。
懐かしき友との再会を喜ぶ間もなく、守が作業の続きをし始めたので光明は仕方なく手伝っていた。そんな中、光明にはずっと聞きたい事が有った様だ。
光明「なぁ、守。あれから真帆ちゃんからは何の音沙汰も無いのか?」
守「ああ、さっきまでいた神様にも聞いては見たけどやはり管轄外で分からないそうなんだ。でも、幸せに暮らしているみたいだから安心したよ。」
一方、好美がいつの間にか猫耳で一人酒楽しむ横で電話が鳴った。画面を見ると「ニコフ・デランド」とある。そう、好美の夜勤の上司である王城の大将軍(というより将軍長)だ。偶然横を通った守は好美が何処からどう見ても電話に出れる状態では無さそうだと察したので代わりに出て伝言を聞く事にした。
守「もしもし?」
ニコフ(電話)「あれ?番号間違えたかな?これ倉下好美さんのばんごうだと思うんですが。」
守「すみません、本人泥酔している様ですので代わりに出たんですよ。」
ニコフ(電話)「そうですか、大変失礼致しました。恐れ入りますが、本人に伝言をお願いしたいのですが。」
電話の口調からとても物腰の低いと伺える大将軍に促された守はすぐ近くにあるチラシを手に取り、裏にメモをし始めた。
守「どうぞ。」
ニコフ(電話)「えっとですね・・・、「今日のお供えは城門の者が取りに行くのでご安心ください」とお願いできますでしょうか?」
守は大将軍の言葉を繰り返して確認しながらメモを取って好美の横に置いた。
ニコフ(電話)「すみません、御手間をかけました。」
守「いえいえ、こちらこそ彼女がすみません。」
ニコフ(電話)「ん?という事は貴方が噂の「変態彼氏」さんですね?」
これはどう考えてもイャンダの仕業だ、それにしてもこんな話題で笑えるなんてどれだけ平和な世界なんだろう。荷解きを終えた守はやっと腰を下ろしてビールを一口呑んだ。
守「初日からこんな調子か、明日からどうなるんだろうな・・・。」
好美「そんなに考えなくていいじゃん、楽しければ良いんじゃない?」
全く、好美の言う通りだ。