86
流石にオーナーの勝手な行動を許す訳にはいかない農家。
-86 パーティーと秘密-
先程の好美の言動に、光が黙っている訳が無かった。
光「ちょっと、まさかと思うけどここの野菜を使ってうちとの取引を減らすつもり?」
今はナルリスの店での売り上げが有るので生活面等においては何とかなっているが、将来を長い目で見ると「暴徒の鱗」との契約は続けていきたい。いち農家の主人にとっては自然の考えと言っても過言では無い。
好美「そ・・・、そんな訳無いじゃないですか。勿論、光さんの所の野菜も使わせて頂くつもりです。」
好美の心中では経費の節約と粗利益高のアップを狙って光との野菜の取引を考え直そうしていたが、この世界に来てすぐの頃からずっと世話になっている分、裏切る訳にはいかないと少しタジタジしていた。
裏庭で店の裏事情が飛び交う中、訳あり品を使った試食品とは言え、折角の料理が冷めてしまうと勿体ないと思った秀斗と美麗は店内へと戻って食事を始めた。美麗の実家である「松龍」の味がベースになっている数々の料理は2人の舌に合っていたらしく、食がどんどん進んで行った様だ。
そんな中、好美との話し合いを続ける光にナルリスの店でグラスを磨いていた真希子から『念話』が飛んで来た。
真希子(念話)「光ちゃん、今大丈夫かい?」
光(念話)「まぁ、大丈夫ですけど。何かありました?」
真希子(念話)「光ちゃんって、明日空いてるかい?」
光(念話)「別に何の予定も無いです、仕事も休みですし。」
「休みだった」というよりは、とある理由からラリーの厚意によって「休みになった」と言った方が良いと思うのは俺だけだろうか。まぁ、それに関しては何も言うまい。
光(念話)「あの・・・、どうしたんです?」
数秒の間沈黙する真希子に対し、少しだが不信感を抱いてしまった光。
真希子(念話)「ごめんごめん、いやね、明日って光ちゃんの誕生日だろう?うちの店で皆で集まってパーッとやろうかと思ってね(言っておくがあんたのではない)。」
光(念話)「別にいいですよ、もうそんな歳じゃないですし。」
断りながらも赤面する光、実は嬉しかったりしている様だ。
真希子(念話)「良いじゃないか、それに美麗ちゃんがこっちの世界に来たんだろ?歓迎パーティーも兼ねているんだよ、守も明日有休を取らせたからどうだい?」
光(念話)「まぁ・・・、真希子さんが言うなら行きますけど何か恥ずかしいですよ。」
真希子(念話)「いつまで経ってもお祝い事は嬉しい事さね、じゃあ明日、必ず来るんだよ!」
2人の『念話』が聞こえていたのか好美はノリノリになっている様だ。
好美「羨ましいですね、楽しそうだから私も守について行って良いですか?」
光「良いけど・・・、好美ちゃん、夜勤は大丈夫な訳?」
「もしも」の時の為に王城にある待機室の連絡先と自分の週休日を光に教えていた好美、予想通りの質問にとスラスラと答えていた。
好美「問題無いですよ、今日もそうなんですけどこの前の代休で明日の夜も休みなんです。」
翌日、守と好美は眩しい朝日を自室のテラスで浴びた後にエレベーターで1階へと降りて徒歩で真希子の待つナルリスの店へと向かった。『瞬間移動』を使えば良いのだが、運動不足の解消と美味い料理の為だという。
好美「今日楽しみだね、何の料理が出るんだろうね。」
守「母ちゃんが来るまでのお楽しみって言ってた、ただ俺って何で呼び出されたんだろう。」
頭を悩ませる守と共に好美はルンルンしながら店へと向かって行った。
一方、光が家庭菜園で毎朝の習慣としている野菜の収穫をしていたのを見かけた真希子は妻から見えない様にオーナーシェフのナルリスを厨房の奥へと呼び出していた。
真希子「朝早くから悪いね、ナル君。少し話があるんだ。」
ナルリス「仕込みは終わってますから別に構いませんけど、どうしました?」
真希子「実はね・・・・、・・・・・・、なんだよ。」
ナルリス「あの・・・、小声過ぎて全然聞こえなかったんですけど・・・。」
副店長は何を言おうとしたんだろうか・・・。