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やっと到着・・・、だけど・・・。
-83 休みはどうすべきものか-
美麗が痛々しかった思い出を語っている間にトラックは国境のトンネルを抜けてネフェテルサ王国に入った、市街地を走り好美のマンションに到着する寸前に美麗は大家との会話を思い出して秀斗に報告した。
美麗「秀斗、荷物の運搬なんだけど1階から運ぶ形で良いよね?」
秀斗「あれ?それ、さっきも言ってなかったっけ?」
美麗「確認だよ、世の中「念には念を入れよ」って言うじゃん。それに好美自身が荷物はここから入れてって言ってたからさ。」
荷物を降ろす為にトラックは1階の店舗部分前へと到着した、ただ秀斗は少し心配そうな表情をしていた。
美麗「どうかした?」
秀斗「いや、こんな所に止めて店の人の迷惑にならないかな。」
恋人の言葉を聞いて携帯を確認しながら答える美麗、待ち受け画面の時計は昼の2:00前を指していた。
美麗「大丈夫だよ、この時間帯ならお客さんは少ないって聞いてたからさ。」
秀斗「それ、誰からの情報だよ。」
秀斗は「暴徒の鱗」の出入口を指差して美麗の言葉を否定した、指し示された方向を見てみるとまだ数名程が並んでいた。よく見てみれば全員『人化』した竜族の様だ。
美麗「あれ?この前好美に聞いた時、この時間は暇だから大丈夫って言ってたのに。」
秀斗「これは流石に店の前に車を止めると迷惑になるだろう。」
美麗は頭を抱えていた、駐車場に車を持って行っても良いが好美の善意を無かった事にしたくはない。
秀斗「でもさ、好美ちゃんからの情報って信憑性があるのかな。本人って普段夜勤をしているからこの時間帯は呑んでるか寝ているはずだけど。」
確かに、夜の10::00から仕事をするならこの時間帯は自室にいるはずだ。そこで2人は店前の混雑が解除されるのを待つ事を兼ねて拉麵屋で昼食を摂る事にした、腹ごしらえをしてから作業をしても問題は無いだろう。それに好美以外の従業員達に挨拶しても構わないんじゃないかという考えもない訳じゃ無かった、ただ2人が入店した時・・・。
女性「いらっしゃい!!お好きなお席にどうぞ!!」
時間的にこの場所にいるはずの無い女性を含む従業員達が笑顔で2人を出迎えていた、そう、好美が「暴徒の鱗」で働いていたのだ。
美麗「好美!!何でよ!!」
秀斗「この時間帯は寝て無きゃ駄目だろう!!」
美麗達の言葉を聞いた副店長がオーナーを守るため、お玉片手に間に割って入った。
デルア「あんた、見ない顔だがうちのオーナーにご挨拶が過ぎるんじゃないのか?」
好美「デル、私の友達になんて事を言うの!!クビにするよ!!」
デルア「え?!そうなの?!悪かったよ・・・、認めるからクビは勘弁してくれ。」
頭を掻きながら調理場へと戻っていくデルアを見送った後、改めて2人を席に案内する大家兼オーナー。
好美「ごめんね、忙しすぎて気が立ってるだけなのよ。普段は良い人だから許してやって。」
美麗「良いんだけどさ、何でこの時間に仕事してんの?夜勤は大丈夫な訳?」
好美「いやね、店長のイャンダが今年3回目のインフルエンザになっちゃったみたいで人員不足だから来たの。」
1年に3回もインフルエンザになるとは、いくら何でも体調管理が怠惰すぎる。
秀斗「でも今夜、王城で夜勤って言ってなかったか?」
好美「同僚がギックリ腰になった時に交代で入ったから代休を貰う事にしたの。」
美麗「だからって働かなくても良いじゃん。」
好美「いや・・・、こんな状況でほっとけないよ。」
流石は起業家、各々の仕事を大切にしていると美麗は感心しながら席に着いた。
感心とは「呆れる」という言葉と紙一重の意味に思える。