82
お世辞にも良かったとは言えない思い出を思い出す美麗・・・。
-82 悪い癖-
一呼吸置いた美麗は自分達がまだ大学に通っていた頃のある夏の日を思い出していた、これは好美の里帰りに同行した美麗が徳島で初めて過ごした夜の事だ。長旅での疲れにビアガーデン等で呑んだビールが手伝ったからか、突然の眠気に襲われた美麗は好美の実家にある部屋でぐっすりと眠ってしまっていた。
その翌朝、友人である桃を徳島駅へと迎えに行った後にある観光スポットへと向かう予定だった美麗は楽しみにしていたからか早起きしていた。玄関前に出て外の澄んだ空気を吸おうとしていた美麗に好美の母・瑠璃が声を掛けた。
瑠璃(当時)「えっと・・・、美麗ちゃんだっけ?おはよう。」
美麗(当時)「あ、おはようございます。」
まだ薄暗い早朝だというのに猛暑が2人を襲う中、瑠璃は玄関先に打ち水をしていた。
瑠璃(当時)「そう言えばうちの子は?」
美麗(当時)「好美ですか?まだ部屋で寝てるみたいですけど。」
瑠璃(当時)「あらま、相も変わらずだね・・・。仕方ない事なのかね・・・。」
幼少の頃から寝起きの悪かった好美は、前日の晩に丸亀競艇で大負けした父・操のヤケ酒に付き合っていたらしい。
ただ時刻は出発予定時間の1時間前、そろそろ起きて朝食を摂らないとまずい。
瑠璃(当時)「美麗ちゃん、申し訳ないんだけど好美を起こして来てくれるかい?私は朝ごはんの支度をしているからさ。」
美麗(当時)「分かりました、因みに朝ごはんの献立は何ですか?」
瑠璃(当時)「ん?うちじゃいつも通りだけど、パリパリの大野海苔と焼いたフィッシュカツにだし巻き卵だよ。」
美麗(当時)「聞いた事ない物が2つも・・・、楽しみにして起こしてきますね。」
瑠璃と別れた美麗は好美の自室へと向かい、ゆっくりと扉を開いた。中ではメイクを落とした好美がTシャツと短パン姿でぐうぐうと鼾をかきながら眠っていた、これは当時2人が住んでいたマンションでもよくある光景だった様で・・・。
美麗(当時)「好美・・・、起きてよ。桃を迎えに行くんでしょ。」
好美(当時・寝言)「うーん・・・、まだ食べる・・・、呑む・・・。」
好美は夢の中でも大食漢振りを発揮していたが、このまま食事を続けさせると自分が食事にありつけなくなるので必死に体を揺すった美麗。
美麗(当時)「もう・・・、後でまた呑むんだから今はそこでストップしなさい。」
好美(当時・寝言)「やーだー、まだ呑む・・・。」
まだ起きようとしない好美に痺れを切らした美麗は、好美が包まっていた布団をひっくり返して無理矢理起こそうとしたがまだ起きていない。諦めずにもう一度体を揺すって起こそうとしたら・・・。
美麗(当時)「お願いだから起き・・・、痛っ・・・!!」
寝起きと同様に寝相の悪さに定評があった好美の左足が美麗の脇腹にヒットしたらしい、2人がなかなか食卓へと来ないので心配になった瑠璃が好美の部屋に様子を見に来ていた。
瑠璃(当時)「ちょっと2人共、何やって・・・、って事故が起きて無いかい?」
震えながら痛めた脇腹を必死に押さえる美麗。
美麗(当時)「あの・・・、好美って格闘技してましたっけ?」
瑠璃(当時)「いや、してなかったと思うけどその様子だと結構な1発が入ったみたいだね。お詫びとして好美の分のフィッシュカツ、美麗ちゃんにあげるわ。」
美麗(当時)「まだ何か見た事無いので喜ぶべきか分からないんですけど。」
そんな中、やっと目覚めたお寝坊さんは目を擦りながら2人の様子を見て質問した。
好美(当時)「おはよう・・・、ねぇ・・・、何でこんなに部屋が荒れてんの?」
瑠璃(当時)「何が「おはよう」なのさ・・・。」
美麗(当時)「誰の所為でこうなったと思ってんの?」
そして数分後、食卓を見て好美は瞬時に異変に気付いた。
好美(当時)「何で?何で私だけフィッシュカツ無いの?」
瑠璃(当時)「あんた・・・、自分の胸に手を当ててよく考えてみな・・・。」
父の競艇ではなく、罰が当たった様だ・・・。