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肴が欲しくて堪らない好美。
-⑧ 神々も人と変わらない-
突然のオーダーストップにしゅんとするマンションのオーナーに朗報がやって来た、どうやらビールだけでは楽しめないかと考慮した貝塚夫妻が肴として色々と用意していた様だ。
結愛「好美、ホッケ焼きたいんだけどグリル使っても良いか?」
守は目を疑った、日本と同様な食材がどうしてこの異世界で手に入るのだろうかと不思議で仕方がなかった。正直、目の前の転生して来た日本人達が平然としているのが不自然に思えて仕方がなかった。
守「なぁ、さっきの料理もそうだけどさ、この世界ってどうなってんだよ。ずっと肉屋で籠っていたから中々言えなかったんだけど、日本に近すぎやしないか?」
好美「えっ?!守、神様から聞いてないの?色々と作り替えてくれているって。」
結愛「そうだぞ、俺達のクレジットカードやキャッシュカードが使えるのもあいつのお陰なんだぜ。」
すると全員の脳内にある男性の声が直接流れ込んで来た。
男性「こら、貝塚結愛。「あいつ」とは何だ「あいつ」とは。禁忌を破ったお前の罪を許してやったのは誰だと思っているのだ。」
声の正体は「神様」ことビクター・ラルー、上級古龍だ。
結愛「おいおい、今になって聞くけど金渡したら許される禁忌って何なんだよ。」
「金が物を言う」というやつだろうか、この世界では何事も金で解決出来るらしい。
ビクター「あ、あれは特別措置ってやつだ。ほら、犯罪にも罰金ってのは付き物だろう。」
ビクターが好美の部屋に出現した後、別の声が流れて来た、今度は女性の声だ。
女性「どうせ競艇で擦ったから金が欲しかっただけだろうが。」
ビクター「お、お前はトゥーチ!!何故ここに!!」
トゥーチ「連続有給を取ってから毎日の様に朝早くから出かけているから怪しいと思って父ちゃんの事を尾行してたんだよ、予想はしてたけどやっぱりモーニングレースを見に行ってたんだな。金が無いからって禁忌を破ったと言って人間から取るなんてどういうつもりだ!!」
続けて出現した三女が言うには神様の間にも決まりはあるとの事で、罰金を取るのはご法度とされている様だ。
好美「トゥーチ神様、今仰っていた事は本当ですか?」
トゥーチ「ああ、俺は親父と違って嘘はつかねぇ。魔力を使って元の世界に戻る事は許されない訳じゃ無いから安心してくれ。勿論、結愛からくすねた金も返させるからな。もしも禁忌だったら1回目で罰せられてもおかしくねぇだろ。」
確かに娘の言っていた事は正しい、しかし父親は引き下がらなかった。
ビクター「待てよ、俺の管轄外では普通に行われている事だぞ。」
トゥーチ「いや、聞いた事ねぇよ!!それに他所は他所、うちはうち!!」
何となく壮大過ぎる親子喧嘩に笑いが止まらない転生者達。
トゥーチ「本当に悪かったな、こんな事になるなんて娘として恥ずかしいぜ。それで?何レース買っていくら負けたんだよ」。
話題が話題なだけに親子喧嘩が夫婦喧嘩にも聞こえる。
ビクター「この前の賞金王決定戦の2-6に…、1億円・・・。」
トゥーチ「だからか・・・、2-6だけやたらとオッズが低くなっていたのは。」
話の流れから察するに三女も買おうとしていたのだろう。
ビクター「1周目の1マークで②号艇が転覆したから絶望していた時に貝塚結愛の情報が流れて来て悪いとは思いつつ・・・、ごめんなさい。」
トゥーチ「俺に謝ってどうすんだよ、社長に謝れよな。」
転生者達「ハハハ・・・!!」
何処の世界でも父親は娘に弱い様だ。
神も人も変わらない。