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結愛の昔話はヒドゥラにとってただのBGMでは無かった様だ。
-79 やっと引越し再開-
結愛の話を作業中のラジオ代わりに聞いていたヒドゥラが、父親を思い出して拳を強く握る社長に声を掛けた。
ヒドゥラ「結ちゃん、これからは私があんた達2人兄妹のママよ。」
結愛「アホか、俺は半身が蛇の母親なんてお断りだね。」
秀斗「それにさ・・・、さっきまでの感動を返してくれない?」
先程まで芽生えていた感情が一気に冷めていくのを感じた秀斗を横目に、車両の下から滑る様に現れたヒドゥラは『人化』して社長をギュッと抱いていた。まるで、本当の母親みたいに。
これはあくまで推測だが、今までずっと独身を貫いて仕事重視の生活をしていた反動が今頃になって現れたと思われた。
ヒドゥラ「何よあんた、勝手に推測してんじゃないわよ。」
何か・・・、すんません・・・。何でだろうな、この世界の住民達は妙に俺に対して風当りが強い気がするんだけど。
美麗「あんたが余計な茶々入れるからよ、少しは静かにしていなさい。」
美麗もかよ、まぁあくまで妄想の中の何でもありな世界だから十分あり得る話なんだけどさ。
それはそうと、もうトラックの方は大丈夫なのか?完全に作業がストップしている様だけど。
結愛「馬鹿言ってんじゃねぇよ、テメェと違って俺の秘書は優秀なんだぞ。」
おい、全員してそんな事言って良いのか?結愛には前にも言ったが、俺の妄想次第でお前らの人生なんてどうにでもなるんだぞ。歯向かっても良いと思うのか?それに2人はまだ抱き合っているつもりかよ。
結愛「ヒドゥー離れろって、作業は終わったのかよ?ずっとくっついてないで終わらせろってんだ、2人共家に行けなくて困ってるだろうが。」
ヒドゥラ「何言ってんのよ、さっきあんたが言った通り私は「優秀」なんだから終わっているに決まってんじゃないの。」
遂には結愛の事を「あんた」と呼んでいる社長秘書、全く・・・、上司部下の関係は何処に行ってしまったんだろうか。
結愛「終わったんか、じゃあ乗って良いんだな?」
ヒドゥラ「勿論よ、美麗ちゃんだっけ?運転席に座って魔力を流してみて。」
先程までとは全く別人の様なラミアに言われた通りにする美麗、しかしこの世界に来て間もないのでどうやるか分からなかった。
美麗「ねぇ秀斗、魔力って私にもあるの?それに何処にどうやって流す訳?」
秀斗「魔力も『作成』で作れば何とかなるさ、ほら、鍵の所のクリスタルに触れて自分の周りにあるオーラ的な物を注ぐイメージをしてご覧。」
イメージ通りの動作を行ってはみたが、エンジンは全くかからない。それどころかセルモーターまで動かない、ヒドゥラはおかしいと思いながら美麗に近付いた。
ヒドゥラ「美麗ちゃん、これってクラッチングスタートじゃないの?踏みながら流さないと動かないわよ。」
王麗が今の車両に買い換える以前の物にすっかり慣れてしまっていた美麗は、久々のクラッチングスタートに焦っていた。あれ?でもさっきまで乗ってたよね?
美麗「何?また茶々入れる訳?普通MT乗る時は最初にクラッチ踏むじゃん。」
じゃあ、何で今は踏まなかったの?
美麗「し・・・、仕方ないでしょ。違和感があったんだから忘れる時だってあるの、人間なんだからね。」
あの・・・、ホンマにすんません・・・。
美麗「もう何なのよ、早く行こうっと・・・。でもその前に・・・。」
秀斗「結愛、いくら払えば良い?」
今日はやられたな・・・。