72
美麗は秀斗との新生活に向けてかなり意気込んでいた。
-72 ヒーロー、いやヒロイン-
秀斗が前日まで住んでいたマンションの前でトラックの運転席に顔を赤らめながら乗り込む様子を見る限りでは、美麗は懐かしい思い出に浸りたかったかも知れない。
久々の再会に心から興奮したのか、美麗は少し強めに鍵を回してギアを「2」に入れてアクセルもまた強めに踏んでエンジンを蒸かした。
秀斗「美麗、大丈夫なのかよ・・・。このトラック、まだこっちの仕様にしていないの?」
美麗「ごめんごめん、元々古いトラックだから少し強めに蒸かさないと動かない時があるのよ。それに・・・、こっちの仕様って?」
嘘だ、この(元々)王麗所有のトラックは美麗が亡くなる数日前に買い換えたばかりだった物だ。まぁ、買い替える原因を作ったのは美麗本人なのだが今は本人の為に内緒にしておこう。ただ、女将本人の拘りである「MT」を探すのにかなりの苦労をした事は美麗には伝わっていない。
一先ず今言える事は、美麗自身がこの世界に来たばかりなので車が元の世界の仕様のままであるが故に「あの問題」が発生しようとしていた。
秀斗はバルファイ王国からネフェテルサ王国へと直通している道路上でトラックを運転している恋人が額に汗を滲ませている事に気付いた。
美麗「どうしよう・・・。」
この言葉から秀斗は確信した、元の世界でもよく発生する(?)あの問題だ。
秀斗「美麗、まさかガス欠か?」
美麗「いや・・・、まだ1目盛上なんだけどさ・・・、この辺りってガソリンスタンドってあるかな?」
読者の方々はご存知である事と信じたいが、この世界にはガソリンスタンドどころか石油が存在していない。この世界の車は全て所有者の魔力で動いているので必要ないからだ。
秀斗「参ったな・・・、何とかしてくれる人いないかな・・・。」
その時、本当に偶然だったのだが2人の乗った車両は貝塚財閥本社、そして貝塚学園魔学校の前にいた。
秀斗「そう言えば、「アイツ」がこの世界にいるって守が言っていたな。電話番号はっと・・・。」
トラックを道端に止める様にと指示した秀斗は携帯を取り出して貝塚学園魔学校の番号を調べ、適当に見当たった番号から1つを選んで電話を掛けた。
数コールの後、とある男性が電話に出た。
男性(電話)「お電話ありがとうございます、貝塚学園入学センターです。」
電話に出たのは入学センター長を兼任するバルファイ王国警察のリンガルス警部だ。
秀斗「突然のお電話申し訳ありません、貝塚結愛さんはいらっしゃいますでしょうか。」
リンガルス(電話)「あの・・・、当校の理事長とどの様なご関係で?・・・っと、少々お待ち頂けますか?」
確かに怪しまれても仕方ないが、2人の会話を『察知』したネクロマンサーが警部に直接『念話』を送った様だ。
そして、数十秒後・・・。
リンガルス(電話)「大変お待たせいたしました、お持ちの携帯電話の番号を直接理事長の貝塚にお伝えしても宜しいでしょうか?」
秀斗「分かりました、宜しくお願いします。」
それから数秒経過した後、見覚えのない番号から秀斗の携帯に着信があった。勿論、相手は貝塚財閥代表取締役社長兼貝塚学園理事長のあいつだ(長い・・・)。
結愛(電話)「もしもし、秀斗か?お前、本当に秀斗なのか?」
秀斗「俺だよ、金上秀斗だよ・・・。その証拠として隣に美麗もいるから替わろうか?」
結愛(電話)「いや、取り敢えず用件を聞いてからだ。」
秀斗は親戚である社長に今乗っている車両について簡潔に説明した。
結愛(電話)「成程な、ネフェテルサにある珠洲田自動車まではまだ距離があるだろうし・・・。分かった、俺が何とかするから学園まで乗って来い。」
いざという時、そしてこう言った緊急時に頼りになるのが貝塚結愛社長だ。
一家に一台、貝塚結愛・・・、違うか。




