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社長って会社で1番偉い人のはずなんだが・・・。
-71 弁当の行方は結局-
複数の従業員に抑えつけられながら、結愛は光明の『瞬間移動』によりバルファイ王国にある貝塚財閥本社へと帰って行った。
結愛「やめろお前ら、せめて一口だけでも食わせてくれ!!」
食い意地を張る妻をよそに周囲への気遣いを忘れない夫は、好美達に優しく声を掛けた。
光明「好美ちゃん、うちの結愛が本当ごめんね。それとお2人もお騒がせしました。」
数人の男女がその場から即座に離れていくのを見て、貝塚財閥の実情を知ったライカンスロープ達は顔を引きつらせていた。
ヤンチ「大企業の社長ってのも大変なんだな。」
ケデール「どっちかと言うと結愛社長の方が皆に迷惑を掛けていた風に見えていたけどね。」
社長達を見送った後、兄弟は自分達が手に持っている弁当の方に目線をやって好美に声を掛けた。
ヤンチ「あの・・・、好美さん・・・。」
ケデール「ちょっと・・・、お願いがあって・・・。」
ケデールの言った「お願い」の事を好美は聞かずとも既に理解していた様で・・・。
好美「あの・・・、その前に焼肉サンドを頂いても良いですか?夜勤の休憩時間にお弁当を食べてから何も口にしてなくて。お腹空いちゃったので、宜しければ2つとも頂いても良いですか?」
夜勤明けの女性の言葉は半分本当で半分嘘だった、空腹で2つとも食べてしまいたいという気持ちはあったが、実は従業員の待機室に備え付けられたお菓子をちょこちょこつまんでいたのだ。そうにも関わらず空腹であるとは、好美の胃袋も侮れないものである。
ただ、狼男たちにとって先程のマンションの大家の発言は正しく「願ったり叶ったり」と言える物だった。結愛がいなくなってしまった分、余った物をどうしようか悩んでいたからだ。
実はと言うとこの弁当、2人が馬鹿食いする事を想定してかなり大きめ、そして多めに作ってあったので兄弟だけでは食べ切れそうになかったのだ。
ケデール「勿論です、是非お持ち帰りください。」
ヤンチ「やはりどんな料理でも出来立てが美味いですからね。」
2人から弁当を受け取った好美は即座に『瞬間移動』で自室へと帰って行った、慌てん坊の大家の背中を追う様に肉屋の店主が声を掛けようとしたが間に合わなかった様だ。
ケデール「好美さん・・・、まぁ、良いか・・・。後で分かる事だし。」
ヤンチ「何を言おうとしたんだよ。」
ケデール「別に、大したことじゃ無いよ。帰ろうか、「兄さん」。」
ケデールの口から自然に「兄さん」という言葉が出る様になった丁度その時、好美が到着した先では「大した事」が起こっていた。
好美「守!!何でいんのよ!!」
そう、仕事に行っているはずの守が半休を取って家にいたのだ、きっとケデールが伝えようとしたのはこの事だったのかも知れない。ただ、問題はそこではなかった。
好美「ねぇ、家に帰って来る時には制服から着替えてって言ってんじゃん。何度言ったら分かんの?!」
好美の家に住み始めた頃は着替えて帰って来ていたが、環境に慣れてしまったが故に最近は忘れがちになっていた。お陰で部屋が豚舎と同じ臭いに・・・。
守が恋人に怒られている一方で、秀斗と美麗は2人でダンラルタに置いていたトラックに乗り込んでいった。
秀斗「ねぇ、別にトラックに乗って運ばなくても『瞬間移動』や『転送』を使えば良いんじゃないの?正直、そっちの方が楽だし。」
秀斗が言った事は確かに正論だ、しかし美麗も引き下がらなかった。
美麗「良いじゃん、積もる話もあるだろうしお互い時間もあるんだからゆっくり行こうよ。」
秀斗「あ・・・、はい・・・。分かりました・・・。」
恋人にタジタジになる秀斗。