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守は何故か平静を保てなかった。
-67 放置されていた身近なお偉いさん-
自分の部屋で改めて呑みなおそうとしていた美麗は電話越しに守の心中を汲み取った、少しだが声が震えていたのだ。
美麗「大丈夫?風邪引いちゃったの?」
守(電話)「何も無いよ、すまんけど一旦電話切るわ。店の人からキャッチが入ったから。」
美麗「分かった、後でね。」
「店の人からキャッチが入った」なんて薄っぺらな嘘だった、守は目の前に無いと言うのにとある視線にビクビクしていた。そう、先程から忘れていた「何か」こと貝塚結愛代表取締役社長だ。
結愛(念話)「おい、いつまでこの放置プレーは続くんだ、コラ!!俺だって暇じゃねぇんだぞ!!」
守(念話)「そんなにキレるなって、悪かったよ。ただ結愛、大変だよ、明日には美麗が彼氏の荷物を積んでこっちに来るらしいんだ。」
結愛(念話)「美麗の彼氏って俺の知ってるやつか?」
守(念話)「金上秀斗ってんだけど・・・。」
結愛(念話)「秀斗って・・・、かんちゃんか?!俺のいとこの?何で?」
守(念話)「それ初耳・・・、って事は今は置いといて。あの2人さ、美麗の部屋で同棲するらしいんだ。秀斗の職場がネフェテルサに有るからって聞いたけど。」
結愛(念話)「何だ??この世界も元の場所と同じでカップルだらけか?」
社長室の大きな窓の前で結愛はずっと頬をかいていた、しかし決して問題が解決した訳ではない。
結愛(念話)「でもマジで参ったな・・・、このままじゃ好美と話せずに工事が始まっちまうよ。」
守(念話)「業者に言って開始を延ばせないのか?」
結愛(念話)「それが出来たら苦労してねぇって、業者側が次に都合よくなるのは2カ月以上先になるらしいから今のタイミングしか出来ないんだ。」
守(念話)「そうか・・・、じゃあ俺に任せてくれよ。」
結愛(念話)「どう言う事だよ、マンション経営は好美とピケルド支店長が独自に行っているんだろ?守に何が出来るんだよ。」
改めて恋人が熟睡しているのを確認した守は、自室で少し考え込んでから結愛を安心させる為に再び『念話』を飛ばした。
守(念話)「確かに結愛が言う通りマンション自体の事は全く分からないけど、「それ以外」の方法なら何とかなるかも知れんぜ?」
結愛(念話)「お・・・、おう。聞こうじゃねぇか。」
結愛は少しの間、守の作戦を聞いていた。
結愛(念話)「お前さ・・・、それ簡単に言うけど大丈夫なのか?」
守(念話)「任せろよ、俺に伝手があるから。」
結愛(念話)「伝手ね・・・、まぁ、無いよりはましか・・・。」
その日の晩、王城での夜勤へと向かう為に起床した好美を「暴徒の鱗」の副店長がいつも通り内線電話で引き止めていた。
好美「もしもし?」
デルア(内線)「もしもし、好美ちゃんか?弁当が出来てるぜ。」
好美「助かるよ、いつもごめんね。」
デルア(内線)「構わんさ、どうせ残り物を詰め込んだだけだから。」
相も変わらず夜勤の時の弁当はデルアに頼りっきりの好美、守との同棲生活を通して何かが変わってくれれば良いんだが。
内線を切った後に、急いで着替えを終えた好美は溢れ出そうな涎を堪えながら『瞬間移動』で1階へと向かった。
好美「いつもありがとう、今日の中身は何?」
デルア「メインは唐揚げだ、好美ちゃん好きだろ?沢山入れておいたぜ。」
好美「やったー、今から楽しみ!!行って来ます!!」
小声でデルアに「まだ子供だな」と言われながら夜勤へと向かった好美は、許可証を首からかけて王城の入り口を通って夜勤専用の入り口から城へと向かった。
星空の下で中庭をゆっくりと歩いて入り口のドアを開けると・・・
好美「おはようございまー・・・、何で?」
好美の目には何が映ったのか・・・。




