66
過去の自分を少し恨む結愛。
-66 兄弟の間では解決しないので-
社長室で頭を抱えながら『念話』をしていた結愛は好美とこの世界で出逢ったばかりの頃、気分が高揚して休みの日は必ず好美と盃を酌み交わしていたので守の言葉を否定する事が出来なかった。
守(念話)「でもさ・・・、駐車場の事なら美麗と話せば良いんじゃねぇの?」
結愛(念話)「美麗って・・・、あの「松龍」にいた美麗か?!まぁ、後で分かる事か。ただそれがさ、あの兄弟の間で行き違いがあったらしくて学園のバス用に駐車場の契約をお願いしようとしたらカブッちまったらしくてよ・・・。今は各国に駐車場を置いてないから毎回バルファイにある学園まで運転手を戻さないといけなくて皆が大変だし人件費やら交通費にガソリン代がかさんで仕方なくてさ、そこでネフェテルサとダンラルタにも駐車場を設置して朝一の運行への通勤や全運転手の退勤をラクにした上で経費を削減しようという訳なんだけど・・・、何とか好美と話せないかな。」
守(念話)「だったらまずいな・・・、多分アイツ夜まで爆睡すると思うぜ。」
結愛(念話)「そうか・・・、参ったな・・・。」
大企業の社長は珍しく焦っていた。
守(念話)「どうかしたか?」
結愛(念話)「いや実はよ・・・、もう業者に頼んで明日には工事が始まるんだ。」
流石は巨大財閥の社長と言いたい場面ではあるのだが、正直褒めている場合ではない。作者も驚いてしまう位、行動力が凄いのは昔から変わらないが少し間を置いて考えるという事を覚えるべきだと以前から光明に言われていた。
守(念話)「でも「工事」って・・・、あの駐車場はもう既に完成してるじゃんか。」
確かに守の言う通り、「中型車専用」の駐車場としては完成していた。
結愛(念話)「バスを止めるとなると「大型車」用に白線を引き直さねぇとだろ。それに思った以上に安く使わせてくれるって言うからそのお礼に改めて舗装工事もしようって事になってたんだよ。」
そんな中、「無事に駐車場が見つかった」と意気揚々としていた美麗から『念話』が。しかしまだ慣れていない所為か、所々が途切れ途切れになっていた。
美麗(念話)「まも・・・、く・・・。で・・・、えの・・・、て・・・、する・・・。」
守「何言ってんだあいつ・・・、ったく仕方ねぇな・・・。」
守はスマホを取り出して美麗に連絡を試みた。
守「美麗、今何て言ってたんだ?全く分からんかったぞ。」
美麗(電話)「ごめんごめん、駐車場や家が見つかったから嬉しくなってさ。呑みたくなっちゃってたの。」
守「いや、それより先に秀斗の荷造りを手伝った方が良いと思うんだけど・・・。」
美麗(電話)「もう終わったよ、トラックにも積んだから明日持って行こうと思って。」
どうやらトラックごと秀斗が『瞬間移動』して荷造りをしていた様だ、呑んでいるから運転は出来ないのでこの世界(と言うより転生者達の間)では当然の考え。ただ守は汗が止まらなかった、このままだと工事中の駐車場で美麗がドリフト駐車をしかねない。
守「まぁまぁ、待てって。折角異世界に来たんだから街中を見て回るのも悪くねぇだろ、秀斗と一緒なら久々にデートでもして来いよ。」
美麗(電話)「う・・・、うん・・・。そうだね。」
美麗の言葉は少したどたどしかった、未だ安正の事が気がかりなんだろうか。
美麗(電話)「ねぇ・・・、1階のコンビニって24時間営業なの?」
守「一応そうだと思うよ、好美自身も利用したいからってそうしているはずだけど。」
美麗(電話)「「も」ってまさか・・・。」
そう、美麗の「まさか」は当たっていた。改めて言う事では無いが「暴徒の鱗」も「コノミーマート」も好美がオーナーなのだ。
美麗(電話)「ねぇ・・・、あの子ってこの世界でどれだけ稼ごうとしてる訳?」
守「俺が知るかよ、想像の斜め上を行き過ぎているもん。」
元の世界にいた頃との違いが2人をドン引きさせる中、守はある事を忘れていた事に気付いた。いや、気付かされたといった方が良いだろうか。
守はほんの少しだが顔を蒼白させていた・・・。
どこかで覚えのある感覚・・・。