645
流石に無駄遣いが過ぎるね・・・
-645 仕事をサボっていた理由-
好美との『念話』が切れてから数秒後、ネイアは深呼吸して何とか自分を抑えようとした。ただ傍らより見ている俺からすれば、それは元竜将軍らしからぬイャンダの金に対する怠惰さに呆れてため息をついている様にも見えた。
ネイア「まぁこれからはピューちゃんがイャンのお金を管理しないといけないかもね。」
女将のこの発言が言葉そのままを意味するのか、それとも2人の仲を認めたという意味なのか。それはおいおい分かる事として・・・。
イャンダ「俺の事は良いから、あれから兄貴はずっと部屋に籠りっぱなしなのか?」
何とか話題を逸らそうとした様にも見えたが今気になるのはそこである、やはりいち旅館の主人である兄が仕事をほっぽらかしている事に関しては弟として見過ごす訳にはいかない。
ネイア「そうなのよ、何度かドアをノックしてみたんだけど全く反応が無くてね。もう仕事が捗らないったらありゃしないわ。」
義理の姉の為にも、そして旅館の為にも何とか兄・ベルディを部屋から引きずり出そうと考えたイャンダは女性2人を連れて兄の部屋へと直行した。
ピューア「そう言えば確か・・・、ベルディさんは食材と寸胴鍋を持って部屋に入って行ったって仰っていましたよね?」
ネイア「そうなのよ、どうやら中で何かを作っているみたいなんだけど何を作っているのかしら・・・。」
弟と同様に元竜将軍だったベルディもバルファイ王城にある食堂の調理場を任せれていたはずの身、その証拠として部屋の中から何やらいい香りがしてきている。
イャンダ「兄ちゃん!!いい加減出てきたらどうなんだよ!!義姉さんが困っているだろう!!」
強めにドアをノックしながら声をかけたイャンダ、すると・・・。
ベルディ「出来たぞ!!」
とても嬉しそうな顔で部屋の中から出て来たベルディ、その表情は恍惚に満ちていた。
イャンダ「一先ず落ち着けって、何が「出来た」って言うんだよ。」
ベルディ「スープだよ、お前の店オリジナルとして出す拉麺のスープが出来たんだよ!!」
イャンダ「「オリジナルのスープだって」?!」
開いた口が塞がらないイャンダ、しかしどういう風の吹き回しだと言うのだろうか。
イャンダ「待てよ・・・、うちで使うスープはもう既に決まっているんだ。オリジナルで出すなんて聞いてないぞ。」
ベルディ「そりゃそうさ、この前思いついたばかりなんだからな!!」
兄曰く、店の準備や新メニューに向けての修業に打ち込む恋人達の姿を見て「自分も店のオーナーとして何かできないか」と思い立ったのがきっかけの様だ。
確かに「暴徒の鱗」では各々の店が独自性を持っているがそれは社長であるシューゴが最終的に決めている事だ、流石にオーナーでも勝手にオリジナルスープを作るのはどうかと思ってしまう。
イャンダ「これ・・・、社長は何て言ってんの。」
ベルディ「まだ言ってない、でも大丈夫だろう。」
イャンダ「何て楽観的な奴なんだ・・・。」
大きなため息をつきながら頭を抱えるイャンダ、「どうなっても俺知らないからな」と言われても仕方ない状況である。
しかし弟が不安におもっていたのは別の事であった、料理において最も大切とされる「アレ」である。
イャンダ「一応味を見てから考えよう、社長に相談するのはそれからだ。」
ピューア「そうね、それからでも遅くは無いかもね。」
ベルディ「よっしゃ!!そうと決まれば早速頼むわ!!」
ルンルンしながら出来立てのスープを人数分の紙コップに入れて手渡す兄と何故か顔が蒼い弟、何があったというのだろうか。
嫌な予感・・・




