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利用者ではなく1人の大家としての話をしたかった好美。


-64 駐車場探しから始まった商売話-


 電話の向こうにいる焼肉屋の板長の厚意により、中型車も置ける駐車場を借りる事が出来た好美。ただ、とある懸念材料を思い出していた。

 好美のマンションとヤンチの店はそれぞれ街を挟んで反対側に位置している、それが故に利用者としての目線から考えると、少々不便さがあるのだ。大家の表情から心中を読み取った板長は、好美を安心させようとこう伝えた。


ヤンチ(電話)「大丈夫ですよ、うちの店の駐車場と言っても今建設している2号店の物の事ですから。」


 実は数か月程前から弟のケデールの肉屋と業務提携を結ぶ事になり、その第一歩として好美のマンションの2つ隣に店を構える事になっていたのだ。因みに精肉店と焼肉や焼鳥を中心とした飲食店を合体させた形になる予定らしい。


好美「という事は・・・、うちの駐車場の隣にある場所を使っても良いという事ですか?」

ヤンチ(電話)「勿論です。一応多めに必要かと考えて広めに作ったんですが、私達の想定していた倍以上の広さになってしまっていたので困っていたんですよ。正直言ってこちらからもお願いしたい位です、是非ともご利用になって下さい(勿論、お金は頂きますが)。」

好美「あの駐車場って結構な台数を置けますよね、おおよそどれ位駐車出来そうですか?」

ヤンチ(電話)「一応・・・、荷物の運搬に使用する10~15台分と考えていたんですね、実はここだけの話、弟が間違えて発注した様で倍の30台分になってしまっているんです。好美さん・・・、私達をお助け頂けませんか?」


挿絵(By みてみん)


 ヤンチの切願する言葉に好美は一瞬顔をニヤつかせながら、冷静になって少しずつだが話を詰めていく事にした。


好美「(タダだけど)利用する方々には何か特典を付けるのはどうでしょうか。」

ヤンチ(電話)「そうですね・・・、一応はうちの店(2号店のみ)でのお買い物を2割引きにするというサービスを考えていますが(一応、金取る予定だから)。」

好美「(タダな上に)良いんですか?!そんなにサービスしちゃって!!」

ヤンチ「勿論です、空いて困っていたスペースをご利用頂けるので大盤振る舞いしちゃいますよ(お金貰えるから)。」


 何となく2人の会話に違和感を感じた美麗は、好美に小声で尋ねてみた。


美麗(小声)「ねぇ・・・、いくら何でも話が上手すぎない?中型用の駐車場の利用料の事って相談の内に入っている訳?」

好美(小声)「えっ?!タダでじゃないの?!」

美麗(小声)「流石に土地を借りるんだから、お金がいると思うんだけど。」


 電話を通して2人の会話が聞こえて来たヤンチは、恐る恐る好美に提案した。


ヤンチ(電話)「あの・・・、マンションに住んでいる方々は月家賃にプラス2000円での月極契約にしようと考えているんですけど駄目ですかね(因みに住民以外は1時間300円)?」


 よくよく考えてみれば、免許を持たない好美自身が利用する訳ではないので考慮する必要は無い。しかし、大家として住民の事を考えれば皆が平等にサービスを受けるべきだと思った。


好美「えっとですね・・・、2割引きのサービスは駐車場を使う人だけですか?それだと他の方々が何か言って来そうで怖いんですが。」

ヤンチ(電話)「確かにそうなり兼ねませんね、では住民の皆様を対象に出前をするサービスを考えてみましょうか。好美さんがオーナーをしている1階の拉麵屋さんの様に。」

好美「それ良いですね、ではその方向で話を進めてみましょうか。」


 2人が電話越しに話を盛り上げていく中、美麗は自分の駐車場探しから話が大きくなり過ぎていないかと不安になっていた。


美麗「何か・・・、違う方向に話が行ってない?「出前」って・・・、完璧にビジネストークになってんじゃん・・・。」

好美「美麗、チャンスは掴める時に掴んでおく物よ。稼げるときは稼ぐ、これがヤンチさんや私のやり方なんだから(今回は上手く商売されちゃったけど)。」


 ただ、話のきっかけとなった大家の友人の利用予定が気になっていた板長。


ヤンチ(電話)「因みにご友人の方は1台分のご利用を予定されていますか?」

美麗「いや・・・、会社の社用車も駐車出来たらなと思っていたんで2台分を・・・。」

ヤンチ(電話)「では、少しお安くさせて頂きましょう。後ほどご利用される駐車場番号をお教え願えませんでしょうか、優先して先に確保させて頂きますので。」


焦りの表情と冷や汗を隠せない美麗。

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