63
後先を考えない美麗にはもう1つ盲点があった・・・。
-63 救世主は板長-
映像に映る母の一言による「お説教確定」でビクビクしていた美麗は、王麗のトラックを『複製』して好美のマンションの前に出現させたのは良いが既に酒が入ってしまっているので運転して駐車場に持って行くわけにも行かなかった。
好美「というかあんた、駐車場の契約もしてないよね・・・。それにうちの駐車場って普通車しか入らなかったはずなんだけど・・・。」
美麗「嘘でしょ?!無理なの?!」
友人としてではなく、住人の1人として落胆していた美麗
好美「いや、中型車の駐車を想定してなかったからな・・・。ちょっと待ってね・・・。」
決して焦りを見せる事はせず、落ち着いて契約する不動産屋に連絡する好美。
好美「もしもし?倉下ですけど、今お電話大丈夫ですか?」
不動産屋(電話)「もし・・・、もし・・・。ちょっと待って・・・、下さい・・・、ね・・・。」
好美「あの・・・、何か食べてます?」
不動産屋(電話)「すみません・・・、給料日だったもんで少し贅沢しようかと天丼を食べてました。」
好美「もしかして・・・、ちょっと前からヤンチさんの所がランチタイムで出し始めたっていうあの「名物天丼」ですか?」
不動産屋(電話)「そうなんですよ、ヤンチ板長って焼き肉屋さんですけど和食に通じている方じゃないですか。一度でもいいから死ぬまでに食べてみたいと思ってたんですよね。」
数カ月前からランチタイムにやって来た客から「焼肉ランチ以外にないのか、魚介系があれば嬉しい」という問い合わせが多くあったので魚屋のジューヌの店と契約して天丼や刺身定食と言った海鮮系統のランチを出し始めたのだそうだ。
不動産屋(電話)「ヤンチさんって凄い方ですね、こんなに衣がサクサクの天丼初めて食べましたよ。いやね、以前から海鮮丼は食べていたんですけど今日は奮発して天丼にしちゃいました。」
どうやら客席で幸せそうに語る不動産屋の声が調理場まで聞こえていた様で、洗い物を済ませた板長が会話に参加して来た。
ヤンチ(電話)「もうすっかり常連になってるピケルドさんにそう仰って頂けると嬉しいですね、ネクロマンサーの方って味にうるさいってお聞きしていましたが。因みに相手の方はどちら様でしょうか?」
ピケルド(電話)「倉下さんですよ、倉下好美さん。」
ヤンチ(電話)「あらま、すっかり有名人の好美さんでしたか。」
ヤンチに気を利かせてスピーカーフォンに切り替えたピケルド。
好美「もう、有名人だなんてやめて下さいよ。結愛の方がよっぽど有名人じゃないですか。」
ヤンチ(電話)「何を仰っているんですか、この世界で貝塚社長を名前で呼べる数人の内の1人なんですから。それにマンション経営を中心に成功している好美さんが羨ましくて仕方ないですよ。」
好美「そんな・・・、私何もしていませんから・・・。」
大型マンションの大家と焼き肉屋の板長が和気あいあいと会話している内に急いで贅沢なランチを食べ終えた不動産屋の支店長は、思い出したかのように電話に戻った。
ピケルド(電話)「すみません、お待たせしました。それで今日はどの様なご用件で?」
好美「実はですね、少し確認したい事があるんですよ。」
ピケルド(電話)「確・・・、認・・・、ですか。私で宜しければ何でも仰ってください。」
今回の電話の用事を端的に伝えた好美、ただ答えたのはピケルドではなく・・・。
ヤンチ(電話)「確か・・・、「中型」はこの国で持っている人が少ないから普通車用の駐車場しか確保していないって以前言ってませんでしたか?」
ピケルド(電話)「そうでした、立体型も合わせて作りましたが全て普通車用だったと思います。」
好美「そうなんですか・・・、困ったな・・・。友人が中型を止める場所を確保したいって言ってまして。」
好美の相談に応じたのは不動産屋ではなく板長だった様で・・・。
ヤンチ(電話)「だったら、うちの駐車場の1部を好美さんのマンション用にします?」
好美「良いんですか?助かります!!」
すっかり有名人になった好美の人徳の凄さたるや・・・。