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と・・・、父ちゃん?!
-630 食べたかったの・・・!!-
自分の負け(=守の合格)を認めてから数分後、魚人は持っていた匙を置いてハンカチを取り出した。
ピューア「と・・・、父ちゃん?」
父のまさかの行動に驚愕する上級人魚、今までにこの様な事があっただろうかとつい困惑してしまう位だった様だ。
ピューア「さっき負けを認めたのにずっと咀嚼してたじゃない、家でハヤシライスを食べてた時はそんな事あったっけ?」
メラルーク「いや・・・、初めての事だ。しかしピューも真希子さんのエピソードを聞かなかった訳では無かっただろう、そんな中で作られた料理なんだから噛みしめて味わいたくなるもんだろう。」
親子からすれば異世界での話ではあるが必ずしも全てを理解出来ないとは言えない、というよりこちらの世界がビクター・ラルーにより日本の様に作り変えられすぎたと言った方が良かったのかも知れない。
メラルーク「俺だけかもしれないけど食べる度に真希子さんの親子愛が口いっぱいに広がる気がしてね、こんな味わい深い料理に「不合格」なんて私は死んでも出せない。」
じんわりとハヤシライスを味わっていた魚人の目に1粒の涙が・・・、これが言葉以上にメラルークの心中を表していた気がしたのはきっと俺だけではないはずだ(と信じたい)。
メラルーク「今はご本人がお忙しそうなのでやめておきますが改めて真希子さんにお礼を言わなきゃいけないですね、そしてこの料理と出逢わせてくれた守君本人にも。」
ゆっくりと、しかししっかりとした足取りで若き料理人の下へと歩み寄るトンカツ屋の店主、そして優しく微笑みながら右手を差し出した。
メラルーク「ありがとう・・・、何となく優しい気持ちになれた気がするよ。これからは今以上にもっと娘達とのコミュニケーションを大切にしなければならないかもな。」
守「そうですか、こんな家庭料理で良かったらいつでもお作り致しますよ。」
種族を超えた友情が芽生え始めていた頃、一方では未だに不満そうにしているのが1名。
好美「ねぇ・・・、私も守のハヤシライス食べたいんだけど。もしかして香りだけで本当にお預けなの?!」
守「いや・・・、それは・・・。」
守はこの料理が出来上がったのも好美が自ら所有する店舗の調理場を使わせてくれたお陰だという事、そして何より今守自身この世界で平和に楽しく暮らせているのが他でも無い好美のお陰である事を思い出していた。
守「分かったよ・・・、光姉ちゃんに言ってもう1度野菜を採らせて貰える様に頼んでみるよ。」
好美「やったー!!言ってみるもんだね!!」
守が「やはり好美には勝てないな」と思っていた丁度その頃、好美にある男性から『何話』が飛んで来た。その正体は守の身にも覚えがある「あの人」だ。
あの人(念話)「突然の『念話』失礼致します。好美ちゃん・・・、今夜の有休を明日にずらす事は可能でしょうか?」
好美(念話)「ニコフさん?!」
守(念話)「兄貴?!」
そう、『念話』の主は好美がネフェテルサ王城での夜勤でいつも世話になっているニコフ・デランド将軍長であった。
好美(念話)「突然どうしたんです?」
ニコフ(念話)「すみません・・・、今夜私が通常出勤だったんですがどうしても外せない用事が出来てしまいまして。」
好美(念話)「「どうしても外せない用事」ねぇ・・・、良いですよ。」
有休を取る理由のなくなった好美は将軍長の頼みを快諾・・・、した様に思われた。
好美(念話)「良いですけど、条件があります。」
ニコフ(念話)「「条件」・・・、ですか・・・。」
守(念話)「好美・・・、あまり無茶言うなよ?」
好美の条件とは