623
泣くほど美味いのか・・・?
-623 オリジナルだけどオリジナルじゃない-
自分が作った料理の味により涙を流す魚人の顔をただただ眺める守は自分の想いが伝わったと思ったのか「うんうん」と何度か頷いていた様だが見当違いの可能性も十分にある、その根拠として数分後にやっと冷静さを取り戻したメラルークが声をかけた。
メラルーク「守君・・・、1つお伺いしても宜しいでしょうか。」
守「俺で答えれる事なら何でもどうぞ。」
今の空気で答える側に回れるのは守だけだと思われるが敢えて何も言わないでおこう、折角良い雰囲気になっているというのにぶち壊しになってしまう。
メラルーク「このハヤシライスソースは君のオリジナルですか?」
守は一瞬「ドキッ」とした、料理人というのは一口食べるだけで何処まで分かると言うのだろうか。
守「これは1部のみ俺がオリジナルの工夫を加えたのですが、元々は俺がまだ幼少だった頃に父親が行方不明になってから女手一つで育ててくれた母親が得意だった物を再現したものです。今の俺があるのはやはりここまで育ててくれた母のお陰ですから。」
メラルーク「やはりそうですか・・・、そんな事情がおありだったとは・・・。お母様は大変だったでしょうに。」
守「ずっとパートタイムでの仕事を掛け持ちして何とか生活出来る様にしつつ、大学まで行かせてくれた母親には感謝しかありません。」
まさか守自身にそんな想いがあったとは・・・、貝塚財閥の筆頭株主である事を隠す為とは言え真希子はかなりの苦戦を強いられたと推測出来る。
守「その上元の世界にあった俺の家で好美とこのハヤシライスを食べた思い出は今でも鮮明に覚えています、母や彼女と「またあの日みたいにゆっくりとこの料理を楽しめたらいいな」という想いを込めて今回は作りました。」
メラルーク「正に「思い出と感謝」の味だった訳ですね、しかし・・・。」
少し不思議そうな表情を見せるトンカツ屋の店主、どうしたと言うのだろうか。
メラルーク「元々からピラフにしていたという訳では無いでしょう?」
確かに前述した通り守が「鶏ガラスープを用いたピラフ」にしたのは好美との出逢いが中華居酒屋「松龍」での事だったからだ、しかし当時の真希子にそこまで手の込んだ物を作る余裕があっただろうか(勿論筆頭株主ではなくいちパートのおばさんとして)。
守「この「ピラフ」こそ俺のオリジナルの物です、ただこれは俺と母2人の料理ですので両方で1つとなる様に敢えて各々から大切な物を抜いてあるんです。」
メラルーク「「大切な物」ですか・・・。」
もう1度ピラフのみを匙に乗せて味わうメラルーク、じっくりと咀嚼して「何が足りないか」を探っていく。
メラルーク「先程守君が「鶏ガラスープを用いた」と仰っていたと思うので・・・、もしかして「コンソメ」ですか?」
守「はい、ハヤシライスソースにコンソメが入っているので今回は敢えてコンソメ抜きのピラフを作りました。では逆に、この「ハヤシライスソース」には何が足りないのかが分かりますでしょうか。」
今度はハヤシライスソースをスプーンで1掬い、そしてまじまじと眺めたマーマンは冷めない内にと口に運んだ。
メラルーク「うむ・・・、味付けは申し分ない。しかし何か無い様な・・・、そう言えばピラフの方に何となく違和感がある気がするが何なんだろう・・・。」
ソースをじっくりと味わいながら双方をじっくりと眺めて考え込む、本当はそこまでする必要は無いのだが。
メラルーク「そう言えばピラフにしては珍しくブナシメジが入っていますね、これには何か理由があるのでしょうか。」
守「それです、敢えて食感により中華料理っぽさを残す為にブナシメジを使いました。ここまで来れば・・・、もう何が入っていないかがお分かりじゃ無いですか?」
メラルーク「もしかして・・・、マッシュ・・・。」
メラルークが食材を当てようとした時、「あの人」が・・・。
空気読めるね・・・




