609
守がそう思っても仕方が無いな・・・
-609 思い出から-
多少ではあったが「(自称)武士を怒らせてしまったか」と心配になっていた守は「ただ酒に酔っていただけ」だと分かって安堵していた、先程までの焦りがまるで嘘だったかの様に落ち着いた表情を見せると店の裏から調理場へと戻り寸胴の中を覗き込んだ。幸い中のハヤシライスソースは焦げ付いてなかった様だ、守は「念の為に確認しておいて良かった」とホッとしていた。
守「さてと・・・、忘れない内に収穫をしちゃいますかね。」
数分前よりは少し大きめに『アイテムボックス』の出入口をこじ開けた本人の手には『作成』で作りだしたと思われる笊と鋏が、一体何を採ろうと言うのだろうか。
守「早くしないと育ち過ぎちゃうからな、ちょっと急がなきゃ。」
そうは言いつつもやはり上半身だけを『アイテムボックス』の中に入れて目的の物を探していた守、コンロの火は止めているはずなのに未だに心配していたのだろうか(それとも『アイテムボックス』の中に入って探し物をする事自体に抵抗しているとでも言うのか)。
守「えっと・・・、この辺だったよな・・・。」
至って落ち着いていた守は与えられた時間をたっぷり使って『アイテムボックス』の中を捜索していた、因みに余談だが好美は美麗達と合流してお楽しみ中との事(正直恋人を見守っていた時の表情は何処へやら)。
そんな中、目的の物を見つけた守は鋏を持った手を延ばして収穫を始めた。一体ここまでどれ位の時間を要したのだろうか、いや絶対にこんなには必要無いはずだ。
守「それは創造主が色々と脱線させたのが原因だろうがよ!!」
俺の所為にすんなや、お前がさっさとやらなかったのが悪かったんだろうがよ!!
守「何でもかんでも人の所為にしてんじゃねぇぞ、俺は何も悪くない!!」
その台詞ちょっと待てよ、君も人の事言えないと思うんだが・・・?
守「まぁ・・・、言われてみればそうだな。何か悪かったよ。」
俺の方こそ大人気なかったよ、悪かった。それで?何を収穫したんだ?ん?何処かで見た事のある色と形の様な・・・、茸か?
守「これな、ぶなしめじだよ。」
しめじ?それをどうするつもりなんだ?
守「えっとな・・・、ハヤシライスの「ライス」部分のアクセントにしようと思って。」
聞いた事ねぇな・・・、一先ず話を進めるか。
フライパンで熱したオリーブオイルに今採ったばかりのしめじを入れて炒めた後に先程の玉ねぎを入れる、そしてシンプルに塩胡椒で味付けすると少量の鶏ガラ出汁を入れてひと煮立ちさせた後にその汁だけを炊飯窯に入れて炊き始めた。どうやら結構シンプルなピラフが出来上がる様だが何故「ピラフ」で「鶏ガラ出汁」なんだ?
守「そりゃあ・・・、メインとなるハヤシライスソースの味を殺してしまわない為だよ。」
成程ね・・・、でも何で鶏ガラ出汁なんだよ。
守「やっぱりここと同じ中華居酒屋を中心とした思い出が多いからね、少しだけでも中華
風味に出来ればと思ったんだけど駄目かな・・・。」
デルア「それだったらピラフよりは炒飯にした方が良かったんじゃ無いか?」
先程まで行方不明になっていたのに突然出て来た元黒竜将軍、正に「神出鬼没」という奴か。
守「デルアさん・・・、いつの間に?」
うん、やっぱり気になるよな?
デルア「今はそんな事どうでも良いだろ、早く料理を提供しないとじゃないのか?」
守「だって・・・、さっきから好美がずっと鬼の形相で探していたもんですから・・・。」
あの・・・、「鬼」は何も知らずに吞んでますが?
戻って来ない事を祈るか・・・