⑥
「あの社長」は相も変わらずだ。
-⑥ 社長登場-
つい最近、元の世界で英検3級をやっと取得した女性社長の口調や性格はこちらの世界に来ても一環として変わることは無かった。
守(念話)「結愛か、お前は相変わらずな奴だな。」
結愛(念話)「何だよ、俺は「あの頃」からずっと変わらないぜ。」
「あの頃」とは勿論、結愛の父親である義弘が西野町学園を買い取り「貝塚学園」とし、理事長として独裁政治を行っていた頃の事だ。2人にとって「最悪の高校時代」と言っても過言ではない。
守は決して脳から離れない黒歴史を1人思い出していたつもりだったが、大企業の社長には筒抜けだった様だ。
結愛(念話)「おいおい、親父の事を思い出させんじゃねぇよ。あいつと血が繋がっているという事を思い出すだけで今でも吐き気がすんだから勘弁してくれ。」
守(念話)「悪かったよ、俺も思い出したくて思い出した訳じゃねぇよ。」
2人にとって良い時代とは言えない物だったが、この「最悪の高校時代」が無かったら結愛が社長に就任する事も光明と出逢い結婚する事も無かっただろう。
そんな中、守は好美から聞いた事を思い出した。
守(念話)「そう言えば結愛、こっちの世界で俺の事好美に話してたんだって?」
結愛(念話)「そりゃあな、あいつはこの世界に来てからずっと「守!!守!!」って言いまくってたからよ。」
2人の『念話』が聞こえていたのか、噂の本人が横入りして来た。
好美(念話)「言ってないもん!!一言も言ってないもん!!」
結愛(念話)「頭の中でずっと叫んでいたくせによく言うぜ。」
どうやらこのネクロマンサーにはあらゆる人物の思考が筒抜けになってしまう様だ、この世界では下手な事を考えてはいけない事が納得出来る。
結愛(念話)「確か夜に至っては「守の・・・」って言いながら・・・。」
好美(念話)「分かった!!認めるからそれ以上言わないで!!」
かなり焦った様子の好美の顔は先程以上に赤くなっていた。
守「好美・・・、お前そんな事考えてたのか?」
好美「仕方ないじゃん、ずっと寂しかったしご無沙汰だったんだもん・・・。」
酔いからかそれとも本心からなのか、少しぐずりだした好美を慰めながら守は結愛に『念話』を飛ばしなおした。
守(念話)「それで・・・、今日は何か用かよ。」
結愛(念話)「おいおい、用って言ったら今日に至っては1つに決まってんだろうが。」
次の瞬間、元の世界にいた頃と同じスーツ姿の結愛が目の前に『瞬間移動』して来た。両手にはゲオルの店の買い物袋を抱えていた。
結愛は右手の袋を高く揚げて微笑んだ後中身を食卓に出し始めた。
結愛「引っ越し祝いに決まってんだろうが、蕎麦買って来たぞ。」
守「悪い、蕎麦はさっき食ったんだ。」
結愛「馬鹿だな、それだけな訳無いだろうが。」
そう言うと左手に持っていた袋の中身を取り出して再び微笑んだ。
結愛「寧ろこっちがメインだけどな。」
好美「ビール!!欲しかったの!!」
先程までぐずっていた酔っ払いは袋の中身を見てすっかり機嫌を良くしていた。
守「おいおい、まだ呑むのか?」
好美「何、呑んで何が悪いの?」
彼氏の言葉に好美は顔をしかめ、守を睨みつけた。
守「ど・・・、どうぞ・・。」
結愛「いやぁ、良い光景だな。これだけで酒が進むぜ。」
守「いや、お前仕事中ちゃうんかい!!」
流石は酒好きだらけの世界。