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愛されとるな・・・
-564 拘るべきか急ぐべきか-
恋人が自分の事を自慢げに話している事を全くもって知らなかった守は「待たせてしまっているから急いで焼かないと」と必死になっていた、ただライカンスロープ達の拘りにより「焼き鳥を焼く時はゆっくりと時間をかけてじっくり火を通す」事になっていた。
そんな中、好美の自慢話を肴に呑んでいたメラルークは改めて守が作業をしている焼き台の方へと向かっていた。
守「あれ?どうされたんですか?もうすぐ・・・、出来ますけど。」
一応供述しておくが炭火による遠赤外線を利用して鶏皮がカリカリになるまで焼く様に言われているので最低でも残り2分半はかかる(推定)。
メラルーク「いやね・・・、実は先日食べた美味い豚を育てている人に会えるとは思っていなかったので感動していまして。」
守「大袈裟ですよ、俺自身は大した事などしていませんから。」
守は店主・ケデールの補助として豚舎での餌やりをしながら店で売る惣菜を作っているだけなので賞賛されても自覚が出来ない。
守「もしかしてうちのお惣菜を食べてくれたんですか?」
メラルーク「いえいえ、私が頂いたのは厚切りにしたトンテキだったと思いますが。」
守「「トンテキ」・・・、ですか?」
実はこの「トンテキ」、ケデールが親友に豚肉本来の味を誰よりも知って貰う為にと初めて振舞った物だったので守が知る訳が無かった。
メラルーク「あれ?トンテキを焼いたのは守君だったのではないのですか?」
すると焼肉屋の店内から再び「あの人」が。
ケデール「悪い悪い、本人の週休日だったからあれを焼いたのは守じゃ無かったんだよ。」
メラルーク「そうなのか?じゃあ・・・、誰が?」
ケデール「俺だよ・・・、恥ずかしながら普段は料理なんてからっきしだからシンプルに焼くぐらいにしか出来なくてさ。」
メラルーク「成程ね、でも美味かったから俺は気にしてないよ。」
ケデール「そうか、なら良いんだけど。」
友人の言っている意味が全く分からないメラルーク。
メラルーク「ケッちゃん・・・、それどういう意味だよ。」
ケデール「すまん、悪く思わないでくれ。ただ最近だけど、うちの店は守の作った惣菜のリピーターが殆どだからマリンに味わって貰えなくて申し訳なく思っていたんだよ。」
メラルーク「何だ・・・、そういう事か。だったら安心してくれよ、今から守君の作る焼き鳥を食べるから大丈夫だよ。」
メラルークの返答に一安心した様子のケデールは笑顔で店内に戻って行った。
メラルーク「そうだ!!あの守君・・・、今から焼き鳥の追加って出来ますか?」
守「混雑している場合は難しいですが今は大丈夫ですよ、何にしましょうか?」
ケデールには「先払いだから必要無いだろう」と言われたが「念の為・・・」のメモとして利用している伝票を引っ張り出した守。
メラルーク「えっとね・・・。」
焼く前の串を並べてあるバットを覗き込むマーマン、因みに魔力によりお肉の鮮度がしっかりと保たれている。
メラルーク「おっ・・・、豚バラがありますね。私好きなんですよ、2本頂けますか?」
先程メラルークの注文を受ける時に書いていた伝票に「豚バラ」と書き加える守、よく見てみると焼き終えたと思われるネタの横にチェックがされていた。
守「「豚バラ」ですね・・・、塩とタレのどちらに致しましょうか。」
素材その物の味を楽しみたいマーマンは迷わず「塩味」を選んでいた。
メラルーク「楽しみですね・・・、これも守君の育てた豚でしょう?」
守「いや・・・、実は間に合わなくてこれは先程買って来た物なんです。」
メラルーク「あらまぁ・・・。」
そこは急げよ