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美麗は久々の再会に興奮していた。
-56 仕方なく取った手段-
守は幼馴染の言葉に耳を疑った、元の世界にいた時の記憶が脳内にはっきりと残っていたからだ。
守「待てよ、美麗!!安正と婚約までしてたんじゃないのか?!確かさっきも安正と結婚できなくなったって嘆いていたじゃないか!!」
確かに松龍にいた頃に結婚を申し込んだのは美麗の方だった気がする、しかし美麗の方も引き下がる訳にはいかなかった。
美麗「守君、かんちゃんと会えなかった間どれ位私が寂しい想いをしていたか分かって言ってんの?小学生の頃やかんちゃんが目の前からいなくなった頃に私が抱いた気持ち、守君には分かる訳?!」
確かに、過去に美麗を襲った事実は1人の女の子が背負うには重すぎる物だった。よく今の今まで立派に生きていたもんだと褒めてやっても良い位かも知れない。
しかし、守も言い出したからには引き下がる訳には行かなかった。
守「じゃあ安正はどうなるんだよ、お前の葬式で泣きわめいてたじゃないか!!」
美麗「でも今はどうしているか分からないじゃん、私達は別々の世界にいるんだよ!!もう会う事は出来ないかも知れないじゃない!!」
今思えば、この世界に来たばかりの美麗に修業を積み重ねたネクロマンサーである結愛並みの魔力があるとは思えない。ただ、安正の現在の状況を知る方法が皆無だった訳では無かった。守はため息をつきながら懐をゴソゴソと探り始めた。
守「仕方ないな・・・、神様にでも聞いてみるか。」
実は、この世界に来たばかりの頃の事だ。守は困った時にいつでも相談を出来る様にビクターから護符を受け取っていた、はっきりと言って前例の無い事だが転生して来たばかりの守がずっと1人豚舎で働く事になったからと神様が同情したらしい。
守「うーん・・・、初めて使うけど大丈夫かな・・・。」
好美「守、それどうやって使うの?」
守「困った時に外で振れって言ってたんだよ、確か空高らかに掲げて振ってくれたら助かるって言ってた様な・・・。」
好美「ふーん・・・、でも確かに外で振った方が良いかもね。何となくだけど。」
こういう時の好美の勘は当たる、その事は守だけではなく皆が知っていた事だった。恋人の勘を信じた守は屋外に出て護符を空に向かって振り上げた。すると・・・。
声①「その護符を使ったという事は守か・・・、今ちょっと忙しいんだがな・・・。」
聞き覚えのある声が空から響き渡った、ただ好美は声の正体である神が忙しいだなんて思えなかった様で・・・。
好美「ビクター神様、どうせ公営競技にでも行ってんでしょ。また負け続けてんですから早く降りて来て下さい!!」
ただ全知全能の神の返答は意外な物だった。
ビクター「違うよ、今日は妻が友人とデパートに行ってるから休日を利用して家事を代わりにしているだけだよ。これから夕飯の仕込みしなきゃならないのに娘達が全く手伝ってくれないからしっちゃかめっちゃかなんだ、分かってくれよ!!」
守「じゃあこの護符、意味無いじゃないですか。」
ビクター「待てよ、何もしないとは言ってないだ・・・。」
ビクターの言葉を遮ってある声が響き渡った、神が先程放った言葉に納得していない様子・・・。
声②「おい親父!!誤解を与える様な事言ってんじゃねぇよ、あんたの代わりにカレーの材料を買いに行ったのは誰だと思ってんだ!!」
ビクター「クォーツ・・・、玉ねぎとじゃが芋を買って来ただけで偉そうにすんなよ。」
天界に住む神様たちもこの世界の者と変わらず庶民的な様だ、今も昔も変わらない。
クォーツ「そんなに言うなら俺が行くよ、親父は得意料理の仕込みでもしてろ。」
ビクター「うう・・・、分かりました・・・。」
全知全能の神も娘には全く勝てない様だ、そこも人間と変わらないらしい。
3人も娘を持つお父さんも大変な様だ、作者は独身だから知った事では無いが。