542
さて、仕事仕事・・・
-542 お客さん・・・、なの?-
店先から聞こえて来た男性の声にすぐさま反応した店主は乾燥機から取り出したグラスに水を注ぎ始めた(当然そうするわな)、それを見ていた娘は父親が先程まで忙しく働いていた事を勿論知っていたので少し気を遣い出した。
ピューア「お父さん・・・、私が行くよ。」
メラルーク「構わないさ、ピューはゆっくりしていなさい。」
ピューア「でも折角ゆっくりすごしていたのに・・・、私だけ悪いよ。」
メラルーク「その気持ちだけ受け取っておくよ。なぁに、俺みたいな個人事業主は少し忙しい位が丁度良いんだよ。」
メラルークは少し歪んだ笑みを浮かべていた、それが何を意味していたのかをピューアは全く理解出来なかったそうだ。
メラルーク「いらっしゃいませ、大変お待たせいたしました。」
先程の忙しさと疲れを感じさせない表情で接客を行う店主、まぁ店の従業員が疲弊していようがお客さんには関係ないもんな。
メラルーク「ただお客様申し訳ありません、実は今日豚カツなどに使う豚肉が終わってしまったので今はアイスクリームのみの営業とさせて頂いているんですが・・・。」
店先に「営業中」の札のみを堂々と掲げているトンカツ屋で今注文出来る物が「アイスクリーム」だけなんて誰だって思わないだろう、どう考えてもメラルークの失態。
男性「いや・・・、えっと・・・、あの・・・。」
メラルーク「あの・・・、ここはただ食事をするお店ですよ?お言葉ですがそんなに緊張しなくても良いんじゃ無いですか?」
目の前に筋骨隆々で身長の高いマーマン(というか大男)がいると誰だって緊張するだろう、えっと・・・、もしかして違うの?
メラルーク「一先ずピッチャーも置いていきますのでこれ飲んで落ち着いて下さいよ、その間に店先の札をひっくり返してきますので。」
男性「あの・・・、違うんです!!」
メラルーク「えっ・・・、「違う」とは・・・?一先ずちょっと待って下さいね?」
「何があったんだろう」とつい考え込んでしまう店主、一先ず急ぎ店先の札をひっくり返して暖簾を片付けると再び男性の下へと戻って来た。
メラルーク「お食事では無いとお聞きしましたがこちらにはどういった御用で?」
男性「あの・・・、私イャンダ・コロニーと申しまして・・・。」
「何処かで聞いた様な、しかも割と最近」と思いながら男性の話に耳を傾けるメラルーク、でないと自分がどういった行動を取れば良いのか分からないからだ。
メラルーク「ご丁寧にどうも、私ここの店主でマーマンのメラルーク・マリュー・チェルドと申します・・・。」
目の前で未だに緊張している男性に釣られたメラルークは何故か丁寧に種族やフルネームまでも紹介していた、このお見合いの様な緊張感はいつまで続くのだろうか。
一先ず自分だけでも緊張を解きほぐそうとすぐ傍に会った新しいグラスに水を注いで一口、心中では「ライスバーを置いておいて良かった」と胸を撫で下ろしたとの事。
メラルーク「で・・・、その・・・、イャンダさん(?)はどういったご用件で?一応言っておきますが物売りはお断りですよ?」
イャンダ「そ、そんなことは無いです!!こちらは手土産で持って来たものなので。」
突然思い出したかのように隣の椅子においてあった紙袋をテーブルに置いて中身を手渡すイャンダ、包装紙のデザインから見るとどうやら「竜騎士の館」で買って来た物の様だ。
メラルーク「こちらは・・・、温泉饅頭ですか?」
イャンダ「い、いえ・・、ロールケーキです・・・。」
「どうして温泉旅館でロールケーキ?」とチンプンカンプンになりながら手土産を受け取るメラルーク、よっぽど緊張した面持ちでここに来た事を察した様だ。やはり相手の緊張をほぐすのが先決だろうと考えた店主は両手で受け取る事に。
メラルーク「恐れ入ります、私甘い物に目が無いんですよ。」
イャンダ「良かった、それをお聞き出来て助かりました。」
共通点って話をする時に良いよね




