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流石は店主さんだな
-467 人気が故の感動と忘れ物-
結愛が指し示したテーブルを弟子の上級人魚と共に見た真希子は「これは使えそうだ」と顔をニヤつかせた、当初は皆が大好きな(と言うより定番の)ソース味にする予定だったが様々な味付けで楽しめる様にした方が人気が出るのでは無いかと踏んだのである。ただ「(多分)今日1日限定のはずなのに人気が出ても仕方が無いのでは?」と意見したくもなってしまうがまだ結果が出た訳では無いので今は何とも言えない、やはり流れに任せるのが1番なのだろう。
真希子「さて、そろそろメインに入らせてもらおうかね。」
まだ結愛の焼きそばに対するお客さんの反応を見た訳でも無いのに先走り過ぎでは無いだろうかと心配になってしまうが元々豚玉のみの予定だったのでここはスルーしておこう・・・、と俺個人は思っていたのだが?
ピューア「師匠、お言葉ですが塩とソースのどちらが人気なのかを知っておいても宜しいのではないでしょうか。」
言っちゃったよ・・・、俺だって提案(いや意見)しない様にしていたのにな・・・。
真希子「そうだね、必ずしも全員が同じものを好むとは限らないしね。折角あんたの親父さんが多種多様な調味料を用意してくれたんだ、少し様子を見てからでも悪くないかも知れないね。」
結愛「それにお客さんの胃袋には限りがあるんですから次々に出しても「流石にちょっと待ってくれ」と言う方々が出て来てもおかしく無いですよ、まだ時間はあるんですからゆっくり行きましょうよ。」
あらら・・・、こうなりゃ豚玉はいつできるんだか本当に予測がつかないよ・・・。
3人は意外と(?)葱焼きが人気だったので豚玉様に新しく生地を作り直しながらお客さんの様子を見てみる事に、どうやら太麺で作った「ソース焼きそば」も細麺の「塩焼きそば」も同様に人気となっていた様だが・・・?
結愛「こりゃあ嬉しい限りだな、俺みたいなのが作った料理がこんなにも人気になるなんてな・・・。何と言うかな・・・、これが感動という奴なのかな?」
結愛が感じていたのは「感動」というより「感涙」といった方が正しい様な気がするが今は余計な事を言うのはやめておこう、折角本人が嬉し涙を・・・、ってえっ?!
結愛「何だよ、俺が感動の涙を流して何が悪い!!」
いや・・・、悪くないです・・・。良かったじゃ無いですか・・・。
ただその様子を見ていた2人(いや1人と1体?)は頭を抱えるばかりであった、正直に言うとすれば「まだ終わった訳じゃ無いんだから作業の手を止めないで欲しい」というのが本心だったのではなかろうか。
ピューア「「本心だったのではなかろうか」じゃなくて正しくその通りよ、ただでさえ大量の生地を作らないといけないんだから今は手を止めないで欲しい訳なんだけど。」
結愛「悪い悪い、すぐに戻るから待っててくれ?」
本当に戻るのだろうか、いや「戻れるのだろうか」と言った方が正しかったのかも知れない。それはとある男性客の一言があったからだった。
男性「社長さん、出汁醤油味は無いのかい?」
どう考えても初対面だったはずなのに結愛の姿を見ただけで「社長さん」という呼び方が出て来るとは、やはりテレビや雑誌の影響力はこの世界でも大きい様だ。
結愛「「出汁醤油味」ですか・・・、確かにあれも美味しいですもんね。作るの忘れてましたよ、すみません。」
男性客「社長さんが良かったらだけど別料金払うから作ってみて貰えるかい、味わってみたいんだよ。」
結愛「そうですか・・・、ただ・・・、おば様・・・?」
貝塚財閥代表取締役社長として「お客さんの要望に可能な限り答えたい」という気持ちがあったのだが一先ず筆頭株主の意見を煽る為に真希子のいる方にチラッと目をやった、それを察した株主は少しため息をつきながら首を縦に振った。
真希子「お客さんが欲しがっているんだから作ってあげな、それに「多様性の時代」だろ?」
結愛「はい、分かりました!!」
あらら・・・、こりゃまた嫌な流れだな・・・。
また話が進まないよ・・・
 




