㊻
好美は美麗の事を誇りに思っていた。
-㊻ 母からの最期の言葉-
好美は自分の命を賭して未来ある子供を救った友人を褒め称えた。
好美「あんた凄いじゃん、人の為に命張るなんてなかなか出来ないよ。」
セリー「きっと美麗さんの姿に惚れた父が、子供を救った美麗さんに新たな人生を与えたでしょう。」
美麗「そうですかね・・・、あんまり実感が湧かないですけど。」
照れつつも辺りを見廻しながら答えた美麗は職場に戻る必要が無くなった、いや戻る事が出来なくなったので一段と落ち着こうと一言放った。
美麗「ねぇ好美、私もビール貰って良い?」
好美「勿論良いよ、英雄に祝杯を与えないとね。」
しかし、テーブルには1本もビールは残っていなかった。どうやら美麗の話を肴に大家たちがずっと呑んでいたらしい。
そんな2人に女神が一言、声をかけた。
セリー「あの・・・、お2人は美麗さんのご葬儀の様子は気になりませんの?」
好美「セリー神様、えっと・・・、見えるんですか?」
セリー「勿論です、父が今まで転生者の方々にして来たようにご覧頂けますよ。」
美麗は固唾を飲んで「イエス」と答えた、咄嗟の行動による自分の死により涙する両親の姿を見るのが怖かったからだ。
本人の返事を聞いた古龍は空中に映像を映し出した、母・王麗が涙を流しながら参列者に言葉を述べるシーンが映し出されていた。よく見ると葬儀の現場では警察の人間が多数を占めていた、やはり警視総監と警視の娘だからだろうか。
王麗(映像)「本日はお忙しい中、私達家族の為にお越し頂きありがとうございます。亡くなった娘はきっと生前に亡くした幼馴染に似て勇敢だったと思います、あの子が勇気を出さなければ決して救う事が出来なかった命があったからです。
正直、私は反省する事しか出来ませんでした。「本来は美麗ではなく自分が飛び込むべきだったのではないか」と、「何も出来なかった自分は警視、いや母親失格だ」と。
今思えばその幼馴染も勇敢にも我々の店を救ってくれた記憶があり、その幼馴染の心臓を元々病弱だった娘に移植した時に勇敢さも一緒に受け継いだのでしょう。
もう2度と、娘の笑う顔には会えませんが、「さよなら」は言わない事にしておきます。
その代わり、満面の笑顔で2人に「救ってくれてありがとう」と伝えたいと思います。
かんちゃん、美麗に人生をくれてありがとう・・・。
美麗、あんたのお陰で楽しかったよ。ありがとう、ゆっくりと休んで頂戴・・・。」
大粒の涙を手元のハンカチで拭いながら龍太郎に連れられマイクから離れていく王麗、その背中はずっと震えていた。
美麗「パパ・・・、ママ・・・、楽しかったのは私の方だよ・・・。産んでくれてありがとう、私の家族になってくれてありがとう・・・。」
美麗は映像の中で遺族席へゆっくりと座る両親を眺めながら震えていた、ただ美麗本人以上に震えている物が1人・・・、いや1体?それとも一柱?
セリー「とても温かい環境の下でお育ちになったんですね、幸せだったんだなって伝わってきましたよ。」
暫くして、美麗の遺体が入っている棺桶を乗せて出発の時を迎えた霊柩車がクラクションを鳴らした時に葬儀会場の出入口から勢いよく飛び出して泣き崩れる男性が1人。
男性(映像)「美麗!!約束したじゃんかよ!!俺達、結婚するって!!お前無しでどうやって生きていけばいいんだよ、教えてくれよ!!美麗!!」
美麗「安正!!そっか・・・、死んじゃったから安正と結婚できないんだ・・・、私から結婚しようって言ったのに・・・、ごめん・・・。」
好美「そうか・・・、遠くから見守っていた時から安正君は美麗に憧れていたもんね。安正君にも幸せになります様にって祈ろうよ、セリー神様、宜しいでしょうか・・・。」
セリー「勿論です、少々お待ちください。」
「一柱の神」は古龍の姿に戻ると空中浮遊し、テラス一面を優しい光で照らし始めた。
セリー「さぁ、祈るのです・・・。」
美麗は目の前の古龍に向かって祈りを捧げた。
美麗「私の家族やお世話になった方々がずっと、ずっと幸せで暮らせます様に・・・。」
時間の許す限り、美麗は祈り続けた。




