442
バ・・・、おば様はどうするつもりなのだろうか・・・
-442 焦るわ・・・-
店にいる全ての客が注目する中、トンカツ屋には似つかわしくない叫び声が響いていた。流石に上級人魚と言っても法律の関係で戦う事も全く無いので包丁を向けられると我々人間と同様に怖くなってしまう様だ、ただその場にいる結愛なら成功するかも知れないが真希子が出来るかどうかの保証は正直言って「無い」に等しいのでピューアの気持ちも分からなくはない。
ピューア「真希子さん、ストップストップ!!そのまま行ったら本当に私死んじゃいますから!!」
真希子「いや、ずっと行っている『人化』もそうですけど演技の上手い人魚さんですね。」
ピューア「何呑気な事言ってんですか!!死んじゃいますから、怖いよー!!」
ピューアが恐怖に慄いている時、密かにだが客席の向こうから「光明さん、申し訳御座いませんでした!!」と言う声が聞こえたので真希子は両手で握っていた包丁を動かしながら弟子に『念話』を飛ばした。それを聞いたニクシーは心から「助かった・・・」と思った様だが客をガッカリさせる訳にもいかないので演技を続ける事に、一先ず大根芝居にならない事を心から祈りたいのは俺だけだろうか。
ピューア「真希子さん、そんなにしちゃったら私本当に切れちゃいます!!日頃の私にどんな恨みがあるかどうかは知りませんが勘弁して下さい!!」
真希子「ハハハ・・・、興奮して来ましたね・・・。もうちょっとで段ボール箱が綺麗に切れますよ?」
ピューア「そこ境目!!境目ですから!!」
真希子「何の境目だって言うんでしょうか、ちょっと見てみたいですね・・・?」
何となく子供を含めたお客さんの目線を逸らせながら喜ばせる「マジックショー」と言うより一部の大人だけが好むであろう「SMショー」になってきたと思ってしまうのだが時間的に大丈夫なのだろうか、今はそれ所では無いって?
真希子「さて、箱の中はどうなっているでしょうか?オープン!!」
真希子が被せていた段ボール箱を上に持ち上げると中からいつの間にか『人化』を解除していたニクシーの姿があった、ただ何となく違和感があった様な・・・。
真希子「これは・・・、ニクシーだから半分人で半分魚なのはわかるけどまさか・・・。」
ピューア「真希子さん、どうやってやったんですか?」
真希子「いや・・・、私も想像が出来なかったんですがまさかそうなるとはね・・・。」
ピューア「あの・・・、「真っ二つ」は「真っ二つ」でも・・・。」
真希子と客達は大きなため息をするニクシーの下半身(魚部分)へと目線をやった。
真希子「まさか半分が「生」でもう半分が「美味しそうな焼きたて」の状態とはね・・・、まぁ平和な(?)感じで真っ二つになったじゃないでしょうか・・・。」
ピューア「真希子さん、いつの間に火入れしたんですか・・・。それに私は食べたって美味しくないですから。(念話)師匠、こんなんで大丈夫ですか?」
真希子「やはり「お客さんの目を欺く」のもマジシャンのあるべき姿ですからね(※飽くまで個人的な見解です)、それに「真っ二つ」とは言ったけど「切る」とは言ってないですから。(念話)いやすまないね、助かったよ。」
師匠と弟子によるマジックショー(?)がしょうも無かったにも関わらず、それなりに店中のお客さんは笑ってくれていた様だ。その間にシルヴァー・エルフに言われた通りに土下座を敢行していた大企業の社長は立ち上がって汗を拭っていた、どうやら会社の面子は保たれた様だ。
一段落ついて安心したのか、油断しきっていたネクロマンサーからまさかの一言が。
結愛「ババアも無茶な事をするな・・・、ただお陰で助かったぜ。」
今の台詞を聞き逃さなかったのはすぐ隣にいたペンネ・・・、ではなく・・・。
真希子「結愛ちゃん、今何て言ったのかな・・・?」
結愛「おば様、ただ「助かった」と胸を撫で下ろしただけではありませんか!!」
真希子「そうかい?今ハッキリと「ババア」って言わなかったかい?」
結愛「いえいえ、この私がおば様に対してそんな呼び方をする訳無いでしょうが!!」
しかし運が尽きたのか、家族連れで食事に来ていた子供が焦る結愛を指差しながら一言。
子供「ママー、あのおばちゃんが「ババア」って言ってたー。」
真希子「結愛ちゃん・・・?」
結愛「な・・・、何を言ってんのかな君は。「ババア」なんて言っちゃ駄目なんだよ?それにお・・・、私の事は「おばちゃん」じゃなくて「お姉さん」だろ?」
誤魔化せてないぞ?




