㊸
焦っても仕方ないと思った美麗は一先ず、冷静さを取り戻す事を最優先した。
-㊸ 友にとって初めてばかりの世界-
2~3分程熟考してやっと冷静さを取り戻した美麗は、周囲を見回して自分の置かれた状況をやっと把握した。
美麗「取り敢えず上がって良い?このままだと風邪引いちゃうよ。」
水分を含み重たくなったチャイナ服を着たままやっとテラスへと上がった友人を見て、好美は『アイテムボックス』からいざという時の為に(?)貯め込んであったバスタオルを取り出してふんわりと包んだ。
好美「びしょ濡れじゃないの、家の中にシャワーがあるからそっち行って!!後で着替え持って行くからね。」
改めて周囲を見回した美麗は好美自慢の「ある場所」を指差して質問した。
美麗「ねぇ、あのお風呂に入っちゃ駄目なの?」
好美「守がいる前で何馬鹿な事言ってんの、あんた恥じらいってものを知らない訳?」
マンションのオーナーは顔を赤くしながら友人の背中を押して無理矢理脱衣所へと連れて行くと、びしょ濡れになった衣服を脱がせてすぐ近くの洗濯機に放り込んだ(正直、洗濯機にそのまま入れて良いのか分からないままだが)。
数分後、着替え用に用意された服を着た美麗は、頭を掻きながらテラスへとやって来た。
美麗「これバイト初日にパパが好美に着せようとしたチャイナ服じゃん、何で持ってる訳?」
好美「どうやらなんだけど、私が火葬される直前に龍さんが棺桶の中に入れたらしくてね、こっちに来た時の荷物に紛れてたのよ。」
好美と美麗は服のサイズが全くもって同じだったので2人は安心していたが、美麗にとって知るべき事はそこでは無い。
美麗「それで・・・、ここは何処なの?死んだはずの好美達がいるって事はあの世な訳?」
好美「「あの世」というより「異世界」って言った方が良いかも、これに関しては神様から直接説明があると思うから安心して。」
美麗「「異世界」ねぇ・・・、だからこの世界では好美みたいに魔法を使ったり髪の青い人間がいてもおかしくない訳だ。」
確かにこの世界では様々な種族が共存しているので髪の色が多種多様ではあるが、ピューアの場合では人間でも無い。
好美「そっか・・・、この子に会うのも勿論初めてだもんね。この子は一緒に仕事をしているピューア・チェルド、マー・・・。」
ピューア「ニクシーだって言ってんじゃん、いつになったら覚えてくれるの?」
『自動翻訳』にまだ慣れていない所為かこの世界の若者達が同じ言語を話している事に驚きを隠せないが、子供の頃からごく偶に神話などの本を読んでいた事があったので・・・。
美麗「ニクシーって人魚や妖精の類の?どう見たって人じゃん。」
ピューアにとってはもう飽きてしまった件で、一瞬だけでも元の姿に戻るのが面倒になっていた。その様子を見た好美は、気を利かせて提案した。
好美「ギルドカード見せれば良いじゃん、そしたら種族や属性も書いてあるし。」
好美に促されるがままにギルドカードを見せたピューア、確かにはっきり「ニクシー」と書かれている。
美麗「全部日本語なんだ!!じゃあここ日本なんだね!!」
好美「いやぁ・・・、それに関しても神様から説明があるから。」
すると次の瞬間、大きな龍が空からテラスへと向けて舞い降りて来た。
美麗「に・・・、逃げなきゃ!!危ないよ!!」
必死に逃げようとする美麗に対して、至って冷静な好美。
好美「大丈夫だから、見てて。」
美麗「大丈夫ってどう言う事?!」
テラスの数メートル上で龍は『人化』して女性の姿で降り立った、その姿を見て美麗は驚きを隠せずにいた。
何もかもか初めてだらけの美麗。