㊷
突然プールの中に現れた者の正体とは。
-㊷ 突然やって来た友人と神の手抜き-
大きな水音を上げてプールへと落ち込んだ人間の姿を見て好美は驚愕していた、何処からどう見ても見覚えのある姿・・・、というより友人だったからだ。
好美「美麗じゃない、どうしてあんたがここにいるのよ?!しかも私の家のプールに落ちてくるだなんて!!」
好美の家にあるプライベートプールに落ちて来たのはチャイナ服をいつも着ているトリリンガルの友人、そう、学生時代に好美がアルバイトをしていた中華居酒屋「松龍」の1人娘であるハーフの松戸美麗だった。きっとこっちの世界に来る際に1歩間違えれば固められた床に激突してしまうが故にプールへ落ちる様にとビクター・ラルーが配慮してくれたのだろう、しかしそれどころでは無い問題が1つ発生していた。
好美「美麗!!聞こえてんの?!私が言ってること分かる?!」
美麗「え?そこにいるのは好美だよね?いくら私がトリリンガルだからってちゃんと日本語を話してくれないと分からないよ!!」
そう、この世界に来たばかりなので神による『自動翻訳』が『付与』されていないが故に美麗は好美(に見える人物)が全くもって知らない言語を話している様にしか見えなかったのだ。
確かに日本語、(学校で習った程度の)英語、そして普段から母・王麗と話している中国語は話せていたが異世界語についてはずぶの素人と言っても良い。
好美(異世界語)「惚けないでよ!!私はちゃんと日本語を話してんじゃん!!」
どうやらすぐ傍にいるピューアにあわせて翻訳されているので美麗からすれば訳の分からない異世界語を話している事になっている様だ。美麗はすぐ近くに守を発見して藁にも縋る思いで声を掛けた。
美麗(日本語)「守君もいんじゃん!!守君!!好美がおかしいよ!!何言ってんのか分かんない!!」
しかし、守も好美と同じ状態であった。
守(異世界語)「いや、好美はちゃんと日本語を話しているぞ!!」
ピューア(異世界語)「待ってよ、2人が話しているのは私と同じ言語でしょ?!」
美麗(日本語)「もう、守君まで意地悪しないでよ!!私、どうすれば良いの?!それにその青い髪の人は誰なの?!」
美麗の様子を見てやっと原因が分かった好美は天界へと向かって声高らかに叫んだ。
好美(異世界語)「ビクター神様!!どうか美麗に『自動翻訳』を『付与』してください!!」
しかし、天界からは何の反応も無い。美麗をこの世界に連れて来たのは他の者なのだろうか・・・。一同が不安に思っていると、聞き覚えのある女神の声がした。
女神(異世界語)「ごめんなさい、お父様ったら美麗さんをほったらかしにしてパチンコに行っちゃったらしくて・・・。私で宜しければ代わりに対応させて頂きますね。」
好美(異世界語)「その声は・・・、セリー神様!!」
ギャンブルへと行ってしまった父の代わりに対応し始めたのは次女のセリーだった。
セリー(異世界語)「もう・・・、お父様ったら、一番大事なスキルを『付与』せずにこの世界に連れて来ちゃって・・・。すぐにやりますからね!!」
次の瞬間、『自動翻訳』が『付与』された美麗は他の者達の言語が分かる様になった。
セリー「美麗さん、私が言っている事が分かりますか?」
美麗「わ・・・、分かりますけど・・・、どこから話しているんです?!」
好美「天界だよ、空の向こうの世界って言えば良いのかな。」
美麗「好美!!やっと日本語を話してくれた!!何言ってんのか全然分からないから困ってたんだよ!!」
セリー「美麗さん、大変申し訳ございません。私の父が至らなかったばかりに・・・、後で家中の雑巾掛けの罰を与えておきますので!!」
神に与えられる罰がまさかの「雑巾がけ」とは、この世界もまだ面白い所がある様だ。
好美「それで?どうして美麗はこの世界に来たの?」
美麗「分かんない、と言うよりここは日本じゃないの?うちの店じゃないの?」
未だに事態を飲み込めていない美麗。