399
本当に幸せな今に感謝しかない
-399 言うべきか、言わざるべきか-
父との楽しい夜が更けた翌日の朝5:00、(今でもそうだが)鶏の鳴き声で目が覚める様になってから早朝に起きる事を清々しく感じる様になったのは父親のお陰だろうか。
以前は「ストレスの軽減や睡眠の改善に良い」という乳酸菌飲料を飲んでもあまり眠れなかった上に目覚めも良くなかったが、今は打って変ったかの様に清々しい。
ソン(当時)「おはよう、お前最近早起きじゃ無いか?」
ナイリ(当時)「おはよう、そうだな・・・。本当にこれも辛かった「あの頃」から俺を救い出してくれた父さんのお陰かも知れないな・・・。」
ソン(当時)「朝から何恥ずかしい事を言ってんだよ、山の美味い空気のお陰じゃ無いか?」
ソン本人は顔を赤くしながら謙遜していたが、実際に父親からの電話が無かったら未だに会社の犬になり続けていたのかも知れないと思ったナイリは本当に感謝するばかりであった。ましてやその父に相談を持ち出してくれた恋人のペンネのお陰でもある。
ただ上級鳥獣人の心中には「このままでも良いのだろうか、そんな訳にはいかないよな」という葛藤があった、正直言ってずっと「恩を受ける」側にいる訳にはいかない。
ナイリ(当時)「俺はペンネに何が出来るだろうか・・・。」
よく考えてみれば今日に至るまでペンネ無しでは生きて行けなかった気がする、笑っていた時も苦しかった時もいつも隣には彼女がいた。自分は誠心誠意を持って恋人に感謝しなければならない。
ナイリ(当時)「ただ・・・、どうやって・・・。」
ナイリは改めて深く考えた。
ナイリ(当時)「ペンネにとって、いや女性にとっての「幸せ」って何だろうか・・・。」
そんな中、ふと先日ペンネとデートに行った時の事を思い出した。ネフェテルサ王国の市街地にあるブライダル用品店のショーケース内のウェディングドレスを着たマネキンを食い入る様に見ていたペンネ、今思えばその時の彼女の眼は一際輝いて見えた気がする。
ナイリ(当時)「やっぱり・・・、女性にとって「結婚」は特別な物なのかも知れないな。」
それからというもの、ナイリはペンネに会う度に「結婚」という物を意識するようになっていた。「これからも隣にペンネがいないと生きていける自信が無い」と不安がっていたのが伝わったのか、ペンネが心配そうに声をかけた。
ペンネ(当時)「ねぇ、どうしたの?元気無さそうだけど。」
やはりまだ会社にいた頃の辛さが残っているのかと思わせてしまったのかも知れない、折角脱却できたというのにこのままではナイリ自身は「あの日」のままで会社を辞めた意味が無い様な気がする。
ナイリ(当時)「大丈夫だよ、何も無いから。」
ペンネ(当時)「本当?そんな風に見えないんだけど。」
ナイリ(当時)「そう?俺はいつも通りだけど。」
ペンネ(当時)「そんな風に見えないもん、だって左手・・・。」
ナイリ(当時)「えっ?左手?」
ナイリがふと自分の左手を見ると市街地に並んでいた屋台で買ったソフトクリームがカップの中でドロドロに溶けてカップから出て来そうになっていた、正直言ってコーンにしていたら完全に終わっていた気がする。
ナイリ(当時)「いや・・・、こんなの平気だよ。溶けたお陰で飲みやすくなったし喉乾いていたから丁度良かったんだ。」
バルタンは無理矢理作った笑顔で何とかその場を治めようとするが過去が過去なのでエルフには全てお見通しだった様だ、ずっと自分の事を見て来た恋人の目は騙せそうにない。
ペンネ(当時)「何か・・・、あった?」
ナイリ(当時)「いや・・・、ちょっと考え事をしていただけなんだ。ごめんね。」
いつもなら「ふーん」で会話が終わりそうな場面だが今回はペンネがただならぬ雰囲気を感じ取っていたのでそういう訳にもいかなさそうだ、ただ今本心を伝えるべきか・・・。
ペンネ(当時)「ねぇ・・・、本当にどうしたの?」
今は違うかもな・・・
 




