398
本当に辛かったんだな・・・
-398 救われた-
自分にきつく当たって来た上司に対して抱いてしまった憎しみの感情を全てぶつけるかの様にありったけの罵声を浴びせて辞表を叩きつけたナイリはそのまま会社を去り一生戻る事は無かったそうだ、実は父親から電話があった日より大分前から会社を辞めて自分がいたという証拠の一切を取り去る準備をしていたという(こう言った表現があっているのか分からないけどこりゃ相当だな)。
そんなこんなで実家へと戻って来た息子は父親の優しさに溢れた表情を見て初めて安堵したという、「もうあの上司の顔を見なくて済む」という気持ちが大きかったと思われるがどちらかと言うと「無事に帰って来ることが出来て良かった」といった方が良かったのかも知れない。
実家に帰ってすぐの事、ナイリは家の風呂の湯船にゆっくりと浸かったそうだ。会社にいた頃は「早く寝て全てを忘れてしまいたい」という感情が脳裏に溢れていた様なので毎日シャワーのみで済ませる事が多かったらしい、ごく偶に友人が「ネフェテルサ王国の「お風呂山」にでも行かないか」と誘って来ていたが「申し訳ないけど・・・」と断っていた位なので精神への疲労は相当の物だったと推測できる。
それが故に実家で久々に浸かったお風呂は物凄く気持ちよかったとの事で、ナイリは危うく眠ってしまいそうになっていたという(そこまで行くとマジで危険だよ)。
ソン(当時)「ナイリ、ゆっくり出来たか?」
この一言がどれだけ嬉しかったかをナイリは今でも覚えている様だ、会社にいた頃は決して無かった自分を包み込む様に優しい言葉・・・。
ナイリ(当時)「助かったよ、風呂ってここまで気持ちいいもんだったんだな。」
ソン(当時)「大袈裟じゃ無いのか、それとも入浴剤のお陰かな。」
こうして何気ない会話で笑い合えるのも実家に帰って来れたが故なのでは無いだろうか、ただナイリは自分の人生を棒に振らずに済んで嬉しかったとの事のだ。
それからという物、先ずはリフレッシュをする事を優先させるために会社で全く使う事の無かった有給休暇を利用して引っ越しの作業や行政における手続きを行いながら可能な限りペンネとの時間を設けて遊びまくったという。勿論実家に迷惑を掛けない程度にだ、手伝いをちゃんとせずに遊び惚けていると帰って来た意味が無くなってしまう。
ソン(当時)「お前が帰って来てくれて助かったよ、最近腰の痛みがより一層酷くなって来たから立っているのがやっとっていう日が多くてね。」
冷えた瓶ビールを息子に勧めながら語る父親、ずっと夫婦二人三脚で行って来た仕事が幾分か楽になった事を本当に感謝していた。
ナイリ(当時)「父さん、大袈裟過ぎないか?それにこうやってビールを勧めたいのは俺の方だって。」
ソンの持っていたグラスが空いていた事にいち早く気づいていたナイリは自分のすぐ傍にあったビールをゆっくりと注いだ、相手への感謝と敬意を込めるかの様に両手で行っていたそうだ。
ソン(当時)「大袈裟なもんか、本心から言っているに決まっているだろう。」
ナイリ(当時)「ハハハ・・・、悪かったよ。」
この世界特有の温暖な気候も手伝っていたからか、この日呑んだビールは最高に美味かったという。決して思い出したくは無かったみたいだが、よく考えれば会社にいた頃は何をやっても罵声が帰って来るばかりで感謝など1度もされなかった様な気がしたらしい。
ソン(当時)「それにしても酷い有り様だったって言うじゃないか、ペンネちゃんが言っていた通り元気を無くしていく一方で辛かったんだな。」
ナイリ(当時)「そうだな・・・、毎日毎日大量に積まれた書類と睨めっこしていた上にその書類の期限に間に合ったとしても「遅い」の一点張りだったもんな。俺が1人遅くまで残業をしていた時だって上司はヘラヘラして呑みに行っていたみたいだし、「残業はタイムカードを切ってから行う様に」って毎日頭が痛くなるまで刷り込まれていたからな。」
ソン(当時)「そうか・・・、じゃあ定時上がりが出来ていたのはその人だけだったのか?」
ナイリ(当時)「そうだよ、しかも何の事情も知らない人事部に至っては「~さん(上司)の部署は残業を全くせずに皆定時で帰っているみたいだから優秀ですね」と上司を褒めていたみたいなんだ。ただあの状況を知ればどういう反応をしていたか見てみたかったもんだね、「全て噓だったんですね、私たちを騙していたんですか!!」ってね。」
今となっては酒の肴になってしまう程の笑い話であった、こうして楽しく過ごせていたのもペンネのお陰と言っても過言では無いのでナイリはふと思った。
ナイリ(当時)「ペンネに感謝しないとな、その為にはどうすれば良いだろうか。」
これは嬉しい悩みかも知れない




