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ここの朝ごはんも人気なんだな、そのからくりが気になる・・・
-391 工夫の為の条件-
メラルークが入り口にやって来るのを今か今かと待っていたお客さんが流れる様に入店して一気に席はいっぱいになってしまった、「やはり朝はこの店でないと嫌」だと思わせる程に店主の作る朝定食が美味しいという事なのだろうか。
この時間帯でも通常通りのメニュー(トンカツ)を注文する事は可能らしいのだが、お客さんの殆どが朝ごはんメニューを頼んでいる事に気が付いたピューアがさり気なく店内に掲げられた小さな黒板に目をやるとそこには「A定食(日替わり:大きな鮭の塩焼き)」と「B定食(ソーセージ・ハム・ベーコンから1種類+目玉焼き)」の文字があった、ただ娘が驚いたのはその価格であった様だ。
ピューア「A定食が1人前500円?!ご飯のお代わり自由なのに?!」
メラルーク「まぁな、でも実はあれでも1カ月前に値上げした価格なんだ。」
どうやら円安による物価の高騰はこの場でも影響を及ぼしていた様で、元々1人前460円だったA定食を値上げせざるを得なかったらしい。ただ「お客さんが今までと同様に利用しやすくする為にはどうすれば良いか」を熟考した結果、可能な限り原価を下げるしかないと判断して卸業者に頭を下げまくったとの事。
店主によるお客さんに対する新たな気遣いについて知った娘は改めて卸業者の者が配達してきた荷物を確認した、どうやら氷で満たされていた発泡スチロールの容器には先程メラルークが捌いていた鮭以外にも入っていた様で・・・。
ピューア「お父さん、これ鮭じゃ無くて鰆じゃないの?しかももう既に切っているみたいだけど。」
容器に入っていた鰆の切り身にはもう既に味付けがされていたので焼けばすぐに提供できる状態だった、ただ卸業者と直接話していたはずの父親からの返答は意外な物だった。
メラルーク「鰆だって?!ピュー、すまんがちょっとこっちで見せてくれるか?」
店に入荷した時点で全ての商品を確認していたはずだと思われていたマーマンからの意外な返答に目を丸くするニクシーは切り身の入っていた容器を持って店主の元へと向かった、そして父親のすぐ近くに荷物を置いて一言。
ピューア「ほらお父さん、これ鰆でしょ?」
メラルーク「あらま、確かに西京味噌焼みたいだな。どれどれ・・・、伝票伝票っと。」
メラルークが荷物と一緒に卸業者の者から受け取った伝票を改めて確認するとそこには確かに「鰆の西京味噌焼」の文字があったので慌てた店主は黒板の内容を書き直しに向かった、その光景を見たピューアの脳内には疑問が生じていた。
ピューア「お父さん、この魚ってお父さんが注文した訳じゃ無いの?」
メラルーク「そうなんだ、業者の人が持って来た商品を見て初めて知る事になるんだ。お陰様で何が来るか分からないから毎日ドキドキだよ、この「日替わり」を楽しみに来てくれるお客さんだって少なくないからね。」
しかし「ただただ知らなかっただけ」では無かった様だ、そこには可能な限り原価を下げる為の工夫がなされていたらしい。
ピューア「でもどうして知らなかったの?お父さんじゃないなら誰が注文している訳?」
そう思うのも当然の事だ、ここの様な個人経営である小さな店に専門のバイヤーや好美の様に突然無茶な買い物をしてくる者がいるとも思えない。
メラルーク「実はここでは少し話し辛いんだが・・・、ちょっと良いか?」
ホールの様子を伺った後、パートにその場を任せたメラルークはピューアを連れて店の裏へと向かった、そしてその場にあったグラスに水を入れて手渡した。
ピューア「どうしたの?」
メラルーク「いや、一休みがしたかったから丁度良いと思ってな。まぁ水はいくらでもあるから遠慮せずに飲んでくれよ、俺達人魚族にとって水分補給は本当に大事だからな。」
グラスに入った水を一気に煽るとメラルークは徐に語り出した。
メラルーク「あれな、お客さんには言い辛いんだけど市場での売れ残り(言い換えれば訳あり品)をこっちに回して貰っているんだよ。可能な限り原価を下げる為に致し方なかったんだ、ただ市場に揚がったばかりで味や鮮度は変わらないからすぐに食べれば何の問題無いって安くして貰ってね。卸業者の人とは「フードロスに協力する」って条件で契約させて貰ったんだ、お客さんも満足してくれているから「結果オーライ」って訳さ。」
ピューア「へぇー、まぁ皆美味しそうに食べてるから良いかって事ね。」
大切なのは「皆」をハッピーにする工夫なのかも知れない




