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カレーの良い匂いがして来たよ
-389 今は紹介すべきかどうか-
開店30分前、メラルークが出来上がったばかりのカレールーで満たされた寸胴をホールにあるライスバーの脇に持って行こうとしていた時にピューアの携帯が鳴った。どうやら相手は「噂の彼氏」らしいのだが・・・。
ピューア「もしもし?」
イャンダ(電話)「おはよう、勉強の方は上手く行ってる?」
改めて言う事では無いのだが、ピューアが実家に戻って来た本来の理由(目的)は「新店で提供する料理を監修する店の技術等を学ぶ事」であった。一応確認しておくが、決してこの事を忘れていた訳では無いよな?
ピューア「大変だよ、もう頭が追いつかなくなっちゃっているもん。」
俺はニクシーの言葉が「覚える事が多くて」という意味なのか、それとも「店等の状況が変わり過ぎていて」という意味なのかが分からなくなっていた。まぁどうせ傍らから見ているだけだから理解する必要なんて無いと思うんだけどね。
イャンダ(電話)「やっぱり親父さんの拘りや技術が凄いって事?」
イャンダ自身は前者だと思っている様だ、そう思うのが自然の流れのはずだが店の現状を知ってしまうと変わって来るに違いない。
ピューア「そうだね、私が想像していた以上に奥が深かったし。」
電話の相手に心配させない様にざっとした返答しかしようとしなかったピューア、今必要とされる技術面に関してはちゃんとメモを取っているので何の問題も無いはずだった。
イャンダ(電話)「そうか・・・、それでなんだけど俺もそっちに行こうと思っているんだが良いか?ピューアにも逢いたいし。」
ついさっき「彼氏が出来た」と父親に伝えたばかりなのに、突然その彼氏が来てしまったらどうなってしまうのだろうと想像しただけでも怖くなってしまう長女。
ピューア「わ・・・、私自身は別に構わないけど新店の準備は大丈夫な訳?」
自分がいない間もずっと開店準備を進めているイャンダを心配している様に見せておいて「まだこっちに来ないで欲しい」という真意をやんわりと伝えたつもりでいたのだが、どうやらそれが裏目に出た様で・・・?
イャンダ(電話)「問題無いよ、店自体は兄貴が予め色々と用意してくれていたみたいだから後は食材の入荷やピューの帰りを待つだけになっているんだ。」
ピューア「そうなの?じゃあ何か・・・、悪い事しちゃったね。」
一見「自分の所為で開店が遅くなっていて申し訳ない」と謝罪している様に見えるが、実際は「彼氏だと紹介出来ていなくてごめん」という意味の方が近いのかもしれない。
イャンダ(電話)「気にしないで、ピューが満足いくまで勉強するのが1番だと思うんだ。」
何となく会話が成立しているのが不思議で仕方が無い、まぁ俺も気にしないでおこう。
ピューア「それで・・・、いつ来る予定?」
出来れば「その時」が来るまでにちゃんと覚悟を決めておきたいと思ったピューア、父親と彼氏が気まずい雰囲気にならなきゃ良いんだけど今はどうする事も出来ない。
そんな中、開店直前の店の隅でずっと電話をしている娘に父親が声をかけた。
メラルーク「ピュー、大事な話の途中で悪いんだけどそろそろ切り上げて手伝ってくれないか?一応ここで勉強する条件が「手伝い」でもあるからな。」
別に怒っていなかった様だが電話の向こうから聞こえた人物の声色により多少であったが恐怖を感じたイャンダ、きっとまだ店に行くべきでは無いと何となく察したみたいだ。
イャンダ(電話)「ごめんよ、忙しい時に電話しちゃったみたいだね。」
ピューア「大丈夫、「そろそろ呼んでも良いタイミング」になったらまた連絡するから。」
電話を切って携帯を懐に入れる娘を見かけた父親は改めて聞いてみる事に。
メラルーク「今の電話って・・・、もしかして例の彼氏?」
ピューア「う・・・、うん・・・。そういう事にしといて。」
何でそう緊張するんだよ




