388
独身の俺には分からんな
-388 緊張しすぎやろ-
娘からさり気無く出て来た衝撃的な一言により今までに無かった位の身震いを見せるメラルーク、いち娘を持つ父親としてはいつかやってくるであろう瞬間で覚悟を決めておくべきものと思っていた様だがピューアが長女だからか初めてだったのでどういう返答をすれば良いのか分からなくなっていた様だ。
一先ずそれなりに言葉を選びながら上級人魚が惚れた男について探ってみる事に、いつか自分の義理の息子になるかも知れない人について聞くのは何の罪にもならないだろうという気持ちでいっぱいだった。
メラルーク「ど・・・、どんな人なんだ・・・?俺とはまだ会った事無いよな?」
相手は自分の娘だが何故か緊張してしまっていたので質問が合っているかイマイチ分からないマーマン、先程も言った通り初めてだから仕方が無いか。
ピューア「そうだね・・・、元王国軍の将軍って言えば良いのかな。」
「新店で一緒に働く店長」だという事を何故か隠すピューア、あまり社内恋愛に良いイメージを持っていないのだろうか。
メラルーク「凄い人なんだな、俺会っても大丈夫な訳?剣とかで攻撃されちゃわない?」
改めて言う事では無いがこの世界の住民は種族関係なく皆が「戦闘行為の禁止」により守られているので攻撃される事は決して無いはずなのだが、「元王国軍の将軍」と聞いて恐怖心を覚えてしまった父。
ピューア「大丈夫だって、最近は剣なんて握ってもないんだから。」
拉麵屋の厨房で剣を使う事があるのだろうかと思わず問いかけてしまいそうになる俺、でもここは親子水入らずにした方が良いよな。
メラルーク「「最近は剣を握ってもない」って・・・、今は何をしている人なんだ?」
「剣を包丁に変えて働いている」と言うと聞こえがいいかも知れないが無駄にハードルが上がってしまう可能性がある、今以上に「拉麵屋の店長」だと言い辛くなることが目に見えて仕方が無い。
ピューア「今は王国軍自体を離れて飲食業で働いているのよ。」
メラルーク「飲食業ね・・・、気が合いそうだな。」
こんな事を言って良いのか分からないが、メラルークは鈍感な奴なのだろうか。
ピューア「そうだね、今度紹介するからゆっくり話してみてよ。」
メラルーク「うん、腹を割って話す機会が出来たら良いんだがな。」
ピューアの言った「今度」が結構すぐにやって来る事をメラルークは未だに知らない、俺からも言わない様にしておこう。
メラルーク「さてと・・・、これで良しっと・・・。」
娘と話している間にゆっくり優しくかき混ぜながら時間をかけてじっくりと煮込んでいた渾身のカレールーが出来上がった様だ、ハッキリ言ってトンカツとカレーのどちらに力を入れているのかが分からない位だと言っても良い。
ピューア「凄い良い匂いだよね、トンカツ屋を辞めて洋食屋でもやった方が良いんじゃないの?」
調理場を包み込む香りは決してカレー専門店やトンカツ屋などで漂って来るスパイシーな物では無く、どちらかと言うと高級ホテル内にあるレストランで提供されるふんわりと優しい物だった。一言で言えば「辛さ」より「まろやかさ」等を重視して作られ、普段なかなか味わう事の出来ない上品さに溢れた「お料理」の匂い。
メラルーク「洋食を中心に提供する飲食店をしている連れに教えて貰ったんだ、玉ねぎを飴色になるまで炒める事から始めるので手間がかかるけどやりがいのある仕事になったなと思っているんだよね。」
ピューア「お父さん・・・、一応確認するけどここって何のお店?」
メラルーク「えっとね・・・、「手ごろな値段で皆さんにお楽しみ頂けるカレー屋」かな。」
ピューア「違うでしょ!!トンカツ屋でしょ!!」
一番力を入れるべき物を間違っていたからなのか、自分が経営しているお店が何なのかも分からなくなっていた父。これも「彼氏」の影響なのだろうか。
オドオドしすぎやろ




