㊳
宝田親子に任せっきりになってはいけないと思っていた好美。
-㊳ 郷土の味と株主の大好物-
宝田親子がクロンの部屋に行っている頃、好美は自分も何か用意しないとと思い「暴徒の鱗」に注文する為、内線電話の受話器を手に取った時にふとある事を思い出した。
好美「そうだ、ビールのアテにはあれよね。」
好美は『アイテムボックス』から薄くて白いトレーを取り出してラップを破り、円形の中身をまな板の上に乗せて細長く切っていき、アルミホイルを敷いたオーブントースターで焼き始めた。
好美「これこれ、良い匂いがしてきた。」
好美が学生の頃、母・瑠璃が仕送りとして送って来ていた荷物の1つを『転送』と『複製』を繰り返して酒の肴にしていた。勿論、元の世界で夜勤をしていた頃の様にゲオルの店で割引になった惣菜を肴にする事も多かった。
そうこうしている内に部屋全体にカレーの香りが漂って来た。正直この香りだけでご飯や酒が進むと言っても過言ではない。
好美「まだまだ、少し焦げ付く位が一番なんだから。」
オーブンの中身は未だ色を変えずにアルミホイルの上に佇んでいた、好美はふと窓の外を見て有る事を思いついた。
好美「折角の天気だから外で楽しもうかな。」
好美は1人テラスを向かうと、3人分のテーブルとチェアーを用意して先に始める事にした。そろそろだろうと思い、キッチンへ引き返すとオーブンの中身は良い具合に焦げ付いていた。
好美「よし、食べ頃になったね。」
サクサクに焼けた中身を手にテラスへと向かい、1人着席して缶ビールを開けた好美は勢いよくかぶりついた。お世辞にも決して厚みがあるとは言えないが、徳島の人間が愛してやまない郷土の味に好美は箸が止まらなかった。
好美「そうそう、ビールにはフィッシュかつよね。」
口の中にカレーの風味が広がるこのフィッシュかつはスーパーで売られている時はフニャフニャの状態になってしまっているので、一度この様にオーブンで焼くと美味しいのだ。
因みに名前の通り中身は練った魚で、「揚げ物」ではなく「練り物」の分類される。徳島県内では「谷ちくわ」や「津久司蒲鉾」の物が有名となっていて、必ずスーパーに並んでいる。
好美「あ・・・、やっちゃった・・・。」
どうやら美味すぎたのか、好美は親子の残しておくつもりだった分も全て平らげてしまった様だ。『複製』をしているのでバレない内にまた作れば全く問題はない・・・、はずだった。
真希子「ただいま、好美ちゃん、あんたここにいたのかい?中にいないからヒヤヒヤしたじゃないか。」
大企業の筆頭株主がクロンの部屋から持って来たコロッケに好美がかじりついた時、事件は起こった。
真希子「何かカレーの匂いがするね、好美ちゃん、何か食べたね。」
守「まさか、フィッシュかつ食ってたな?!」
学生時代、好美が守を連れて帰郷した際に毎日何枚も何枚も食べていた事を守は覚えていたのだ。
真希子「守、フィッシュかつって?」
守「ほら、お土産で母ちゃんにもあげただろう?」
真希子「あれかい?!あれがあるのかい?!」
好美は『アイテムボックス』から大量のフィッシュかつを取り出して真希子に見せた。
真希子「沢山あるじゃないか、早く焼いておくれよ!!」
そう、真希子もフィッシュかつが大好物だったのだ。
真希子のとっても「思い出の味」だった様だ。




