㊲
クロンは気分が良くなっていた様だ。
-㊲ 転生者達の好物と作ってる人間-
漫才の様な親子の会話を目の前で見たクロンは、声高らかに笑っていた。
クロン「明るくて羨ましいね、あたしゃこれから毎日の生活が楽しみだよ。」
真希子「悪くは無いだろう、私ゃ暗くてシリアスな雰囲気が苦手でね。やっぱり笑っている方が楽しいもんさ、次第に周りの人達をも楽しくすることができるしね。」
笑いが和やかに溢れる中、真希子はクロンからビニール袋を受け取った。
真希子「ありがとうね、この味を知ってしまったからもう他の店で買う気にはならないよ。ほら守、あんたもお礼しな!!」
守「ど・・・、どうも・・・。」
真希子「何だい、素っ気無いね。そんなんだとあんたに分けてやんないよ、それにしてもいつもより重いけど何でだい?」
クロン「大家さんの所に行くんだろ?あの子が大食いって事はマンションでも有名だからね、今から対策を練っておかないと。」
真希子「「備えあれば患いなし」ってやつかい、あんたも流石だね。」
3人の様子を『察知』したのか、うわさの大家から『念話』だ。
好美(念話)「あのお3人さん、全部聞こえてましたけど・・・。」
好美の様子を察したのか、少し慌て気味の真希子。
真希子(念話)「何言ってんのさ好美ちゃん、皆いっぱい食べるあんたが好きって言ってんだよ。」
好美(念話)「真希子さん、何処かで聞いた事のあるセリフで誤魔化していません?」
真希子(念話)「そんな事無いよ、ねぇ、守?」
守(念話)「お・・・、俺に振るなって!!」
『念話』が『付与』されていないクロンは、目の前の転生者達がどうしてピクリとも動かず、ずっと直立不動でいるのか不思議で仕方がなかった。
クロン「あんた達、さっきから何してんだい?」
真希子「ごめんごめん、ちょっと考え事していたんだよ、ねぇ守?」
守「おいおい、こっちでもか?何で俺に振るんだよ!!」
真希子「あんた以外誰がいるってのさ、上の階にいる好美ちゃんにでも振れってのかい?」
守がどうして「こっちでも」と言ったのか全く分からなかったクロンからビニール袋を受け取った2人は、エレベーターで15階へと向かった。
真希子「まだ温かいね、嬉しくなっちゃうよ。」
守「母ちゃん、そろそろ中身教えてくれよ。」
真希子「後で分かる事さね、無くならなければの話だけどね。」
頭の中が「?」で満たされている守を連れて、真希子は好美の待つテラスへと向かった。
真希子「あんた、いつの間に移動したんだい?中にいないからヒヤヒヤしたじゃないか。」
好美「すみません、折角のお天気だったので外の方が良いかと思いまして。」
真希子「あんたも粋な事してくれるじゃないか、ほら、貰って来たよ。」
真希子からビニール袋を受け取った好美は早速中身を1つ食べた。
真希子「あんた、何ズルしてんだい。」
好美「だって・・・、早く欲しかったんですもん・・・。」
真希子「まぁ、分からなくも無いけどね・・・。」
守は好美の喜ぶ顔を見て中身を予想して母親に確認した。
守「母ちゃん、あれって・・・。」
真希子「そうさね、あんたが働く肉屋のコロッケとメンチカツさ。いつも揚げたてをすぐに割り勘で沢山買うんだよ。」
守「だからか・・・、開店してすぐにコロッケとメンチカツが無くなるのは。」
毎日の様に守の頭を抱えさせていたのは母だった、どうしてかと言うと豚舎で豚の世話をする傍らでこの2種類を作っていたのが紛れもなく守本人だったからだ。
真希子「このメンチの中身を単体で食べても美味しいと思うし、コロッケはじゃが芋が沢山でホクホク。それに両方共衣がサクサクで癖になるんだよ、あんた良い腕してるね。」
守「店長直伝なんだ、美味いだろう?俺も大好物の1つなんだよ。」
実は店主に内緒でいつもつまみ食いしている守。