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美味しいトンカツの味をより一層美味くしてくれる話かもしれない
-372 父の本音と最も大切な事-
何も知らない体で店自慢の豚カツを食べながら店主・メラルークの話を聞いていたシューゴ、飽くまで推測ではあるがこの時食べていた料理の味を楽しめてはいなかったのでは無いだろうか。
シューゴ「宜しければお話をお聞かせ願えませんか、勿論お気に障らない程度で構いませんので。」
メラルーク「決して明るい話では無いですけど、良いんですか?」
シューゴ「私なんかが聞いても宜しいなら・・・、ですが・・・。その前にちょっとお手洗いの方をお借りしても?」
メラルーク「勿論です、どうぞ。」
シューゴが近くの化粧室から数分で戻った後、グラスに入っていた水を煽って一息ついたメラルークは決して軽くはない口をゆっくりと開いた。
シューゴ「すみません、お待たせ致しました。どうぞお話しください。」
メラルーク「はい・・・。私には2人の娘がいるんですがその内の長女であるニクシーが突然「魔学校で勉強して銀行員になる」と言い出しましてね、その頃この店を大きくすることで頭が一杯だった私は頭ごなしに反対してしまったんです。ただ娘も強情だったもので、私の反対を押し切り家を飛び出して行きました、それから自分は心中で「きっとそれなりの覚悟があるんだろう」と黙認する様にはしていたんですが先日とある理由で帰って来た娘をあからさまに拒絶してしまったんです。
本来親の立場としては子供のやりたい事を応援しなればならないと思うべきなのかも知れませんが反対してしまった手前どうする事も出来なくてね、本当に私は父親として最低な事をしてしまいました・・・。」
今だから、そして長女本人がいなかったから本音を吐き出すことが出来た父は改まった様に水をもう1口飲んで一息ついた。
シューゴ「あの・・・、少々宜しいでしょうか。」
メラルーク「はい・・・、えっと・・・、どうされました?」
メラルークの本音を聞いたシューゴは思い切った質問をしてみる事に、返答次第では本当に新店の企画が水の泡になってしまうかもしれない。
シューゴ「私がこんな事を聞いて良いのか分からないんですが、もしも娘さんとお会いする事が出来たらどうされたいですか?」
メラルーク「そうですね・・・。」
ゆっくりと息を吐いて返答を考える父親。
メラルーク「娘は決して私の事を許してくれないと思いますが、「応援してやれなくて申し訳なかった、いつでも帰って来ても良いから」と謝罪したいと思います。」
シューゴ「では・・・、決して娘さんの事を嫌いになった訳では・・・?」
メラルーク「勿論、質問を返す様で申し訳ありませんがそんな親がいるんですか?」
シューゴは返答に困った、そんな暴徒の目を店主はじっと見ていた。
シューゴ「そうですね、愚問でした。改めて聞く事ではありませんが、娘さんの事をお許しに?」
メラルーク「悪いのは私の方だったんです、許すも何も無いでしょう。」
シューゴ「分かりました。聞こえていたでしょう、どうぞこちらへ・・・。」
先程行った化粧室の方に向かってシューゴが手招きをすると・・・。
メラルーク「ピューア・・・。」
ピューア「久しぶり、勝手に敷居を跨いでごめん。」
実は先程化粧室へ向かった際、ピューアにこちらへ『瞬間移動』するようにと『念話』を飛ばしていたシューゴ。
シューゴ「騙すようなことをして申し訳ありません、こうでもしないとメラルークさんの本音をお聞きする事が出来ないと思ったので。」
メラルーク「どうか謝らないで下さい、私の事を気遣って下さったのでしょう。寧ろ感謝しています、ありがとうございます。」
シューゴ「それで・・・、先程の言葉なのですが・・・。」
メラルーク「そうですね・・・。ピューア、許してくれとは言わないが最優先すべきお前の気持ちを汲んでやることが出来ない最低な父親で今まで本当に申し訳なかった。すまなかった、これからはいつでもここに帰って来い。そして全力でお前の事を応援させてくれ。」
ピューア「父さん・・・、こんな親不孝な娘を許してくれてありがとう・・・。」
何か良い話になったな・・・




