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親子喧嘩(?)が原因で新店のこれからが変わる可能性
-371 気遣いと心遣い-
ピューアとの会話から親子の事を気遣ったのか、一旦シューゴは今回の件を保留にする事にした。いくら何でも気まずい雰囲気のままで父と娘を再会させる訳には行かない、ましてや一緒に仕事をするだなんて出来る訳が無いと思ったからだ。
翌日ダンラルタ王国にある鉱山での営業を普段通りこなした店主は自らの昼食も兼ねて一先ずメラルークが齷齪働くトンカツ屋の「C’ s キッチン」へと向かう事に、どうやら新店がどうなるかはチェルド親子にかかっている様だ。
メラルーク「いらっしゃい、あらシューゴさんでは無いですか。次の商談って今日でしたっけ。」
この日に至るまで商談や相談を何度も何度も繰り返して来た2人、今日次第ではその日々の苦労が全て水の泡になりそうで怖い。
シューゴ「いえ、今日はただ昼食を食べに来ただけなんですよ。やはり監修をお願いしたお店の味をしっかりと舌で味わっておくのも私の大切な仕事だと思いますし、大好きなここの豚カツを改めて味わいたいと思いまして。」
メラルーク「あらま、今ではもう有名企業と言っても過言では無い「暴徒の鱗」の代表さんにそう仰って頂けるなんて料理人冥利に尽きますね。こりゃあ頑張って熱々の豚カツを揚げないといけないな。」
シューゴ「何を仰っているんですか、私はメラルークさんが大切にされているこの店その物の味を味わいに来たんですよ。それに頑張り過ぎて焦がすのだけはやめてくださいね。」
メラルーク「こりゃあ1本取られましたね、やはりどんな仕事でも適度に頑張るのが良いのかも知れませんね。では・・・、私はこれで。」
やはりランチタイムだからか、それともテレビで放映されて有名になったからか、店内は多くのお客さんで満席となっていた。しかしそんな中でも笑顔でシューゴを出迎える程の余裕を持っている、もしかしてこれが「貫禄」という奴なのかも知れない。
メラルーク「あ・・・、あっちい!!こん畜生め・・・。」
あらま、そんな訳でも無かったみたいだな。うん、前言撤回。
シューゴ「あの・・・、大丈夫ですか?」
メラルーク「いや・・・、お恥ずかしい所をお見せしまして面目ないです。」
正直言ってシューゴは信じる事が出来なかった、目の前にいる優しい表情を浮かべるマーマン(メラルーク)が本当にピューアと仲違いをしている父親だというのだろうか。
ただ今はゆっくりとランチタイムを楽しみたい、シューゴは自分の脳内に浮かんだ疑惑をほんの少しの間だけでも忘れる為に店に置かれている雑誌を読む事に。
シューゴ「「3国の人気温泉宿」ねぇ・・・、やっぱりあそこも載ってるわ。」
シューゴの目に留まったのは新店が入る事になっているベルディ達の旅館だった、どうやらこの暴徒は完全に仕事を忘れる事が出来ないでいるらしい。
シューゴがゆっくりと雑誌を眺めていると店主が自ら料理を運んで来た、普段はホールを担当しているパートタイムのドワーフやエルフにお願いしているのだが「これから共に働く仲間になる方なので特別に」という事なのだろうか。
メラルーク「お待たせしました、温泉ですか・・・。御兄弟で行かれたりするんですか?」
以前店主は新店で出す料理を監修する際のヒントにすべく、特別にシューゴ自らによるスープ等の仕込みを見学した時に弟のレンカルドと会った時の事を思い出した様だ。
シューゴ「いえ、私もそうですが弟も店を年中無休にしているのでそう言った時間が取れなくて全く・・・。そう仰るメラルークさんの方は?」
メラルーク「私ですか・・・、ちょっと失礼しても宜しいですか?すぐに戻りますので。」
先程に比べて客足が落ち着いたのを確認したメラルークはパートタイマー達にホールと調理場を任せた後、水の入ったグラスを片手に丁度空席となっていたシューゴの隣に腰を下ろした。
メラルーク「よいしょっと・・・、すみません。この店を開店させてからなんですが、お陰様でこの通りですのでなかなか家族との時間を過ごす事が出来ないままでいるんですよ。それに実は・・・、とても言い辛い事情がありましてね。」
シューゴ「「事情」・・・、ですか・・・。」
「きっとピューアとの事なんだろうな」と察したシューゴは相手が話しやすくなる様にと敢えて何も知らない体で話を聞く事に、これも一種の気遣いかも知れないな・・・。
メラルークの語る「事情(本心)」とは・・・




