㊱
母親の事が心配な息子。
-㊱ 母の目的と隣人-
自分の予感が当たらない事を願う守は、エレベーターに乗り込もうとする真希子について行く事にした。理由は簡単な事だ。
守「母ちゃん、千鳥足じゃんかよ。危ないって。『瞬間移動』で行こうよ。」
真希子「良いんだよ、外の空気に当たって少し酔いを醒ますのに丁度良いからね。」
確かに真希子の意見は正しい、しかし守は思い出してしまったのだ。何気ない一言を最後に母が自分の下からいなくなってしまった事を。確かに『察知』を使えば母がどういう状況なのかを簡単に把握する事が出来る、しかし問題はそこでは無い。
守「あの日、母ちゃんがいなくなってから俺も皆も辛かったんだぞ。好美もそうだけど、また俺の下からいなくなるつもりかよ。また辛い想いをさせるつもりかよ。」
真希子「何だいあんた、大袈裟すぎやしないかい?」
守「特に母ちゃんは俺がガキだった頃から無茶してばっかじゃねぇか、何でもかんでも軽く思ってんじゃねぇよ。」
好美「そんなに心配なら、守がしっかりとついて行けばいいじゃん。」
好美の意見はシンプルだったが、現状の解決に1番適したものだった。
好美「確かに真希子さんはここに来るまで結構呑んでるみたいだから心配になるのは分かるよ、そりゃあ親子だもんね。だったらすぐ傍で介抱すれば良いだけだよ。」
好美の言葉は的を得ていた、顔を赤くしていた割にはまともな事を言う奴だ。
好美「何よ、私だって冷静に考える時くらいあるもん!!」
すんません、失礼しました・・・。
さてと、気を取り直して・・・。
守は好美に言われた通り、真希子と一緒にエレベーターに乗り込み14階へと向かった。どうやら好美の言動は正解だった様だ、真希子はエレベーターの中で足をふらつかせていたのだ。バランスを崩していたのか、それとも酔いからか、しかし守には分かっていた。
守「両方だな・・・。」
真希子「何さ、何か言ったかい?」
守「母ちゃん、一度水か烏龍茶でも挟めって。呑み過ぎてフラフラだぞ。」
真希子「それもそうだね、あんたの言う通りにさせてもらうよ。」
守は何処からどう見ても正常とは思えない母に質問した。
守「そんな状態で何を持ってこようとしたんだよ。」
真希子「行けば分かる事さね、ほら着いたよ。」
2人が来たのは「1407号室」、真希子の隣の部屋だ。
守「母ちゃん、数字も分からなくなってんじゃんか。一緒に来て正解だよ。」
真希子「いや、用事あるのはここなんだ。ここの人と割り勘で買っている物があってね。」
守の予想に反して意外と意識がはっきりとしている様子の真希子が隣の部屋のインターホンを押すと、部屋の中から鳥獣人族らしき女性が出て来た。
女性「あら真希子さんかい、いつものやつかい?」
真希子「いつも預かって貰ってすまないね、今から大家さん(好美)の家に持って行くんだけど私の分貰っても良いかい?」
女性「構わないよ、それにしても良いのかい?私の方が多く取っちゃって。」
真希子「良いんさね、私は元々1人暮らしだし、あんたは旦那さんが大酒のみだろう。その上、この子と違って子供達も食べ盛りなんだから気にしないでおくれ。」
女性「悪いね、じゃあ持って来るからね。」
数分後、女性はビニール袋を片手に戻って来た。
真希子「ありがとうね、助かるよ。」
女性「なあに、いつもの事さね。そう言えば、その子があんたの息子さんかい?」
真希子は守の背中を押して女性の目の前に突き出した。
真希子「うん、守ってんだよ。ほら守、この部屋に住むクロンさんだ、挨拶しな。」
守「あ・・・、ど・・・、どうも・・・。」
真希子「何だい、素っ気無いね。もっと気を利かせた挨拶位出来ないのかい?」
守「だってよ、初対面の人にどう言えば良いかなんて大学で習って無いしよ・・・。」
実は意外と人見知りな守。