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おいおい、店は大丈夫か?
-361 大切-
実は弟思いだという兄の心遣いに感謝はしていた弟、しかしその心中ではとある相違点が生じていた様だ。俺個人的には折角生き別れて以来の再会を果たしてこれから共に仕事を始めるタイミングなのでこれをきっかけに兄弟喧嘩が勃発しないで欲しいという願いがあるのだが2人共分かる訳無いだろうな・・・、何か虚しい・・・。
イャンダ「兄貴、今「並ぶであろうお客さん」って言ったか?」
ベルディ「勿論だ、誰だって新装開店の店には並びたくもなるだろう?」
イャンダは「暴徒の鱗 ビル下店」の開店初日の事を思い出していた、確かに王城の調理場での仕事の経験はあったとしても当時の本人は全く持って拉麵屋で働いていた経験が無かった。それと調理器具等に全くもって慣れていなかったという理由も重なってオーナーである好美や王城にいた頃から共に働いていたデルアも含めて全員がバタバタとした1日を過ごしていたのだ、ただこれから働く新店では最低でも今までよりは楽に出来ると思っていたのが仇になったとの事。
イャンダ「何処にお客さんが並ぶってんだよ、まさかフロントの前にか?」
ベルディ「あのな・・・、お前の記憶の中ではうちのフロントの前がうんと広いって事になっているのか?「店内飲食専用出入口」の前に決まっているだろう?」
イャンダ「え?!今何て言ったんだよ!!」
ベルディ「いや・・・、だから「店内飲食専用出入口」だよ。ここに引っ越して来る前に何度も店を見ているんだから知っているだろう?」
イャンダ「う・・・、うん・・・。」
嘘だ、実際イャンダは新しい設備や器具の配置等にずっと着目しながらピューアと開店当日等の打ち合わせを行っていたので出入口までは見ていなかったのだ(本来はおおよその席の配置を把握する時に見ているはずだと思うが)。
ベルディ「その表情からすればお前・・・、何処か勘違いをしているんじゃ無いのか?」
イャンダ「(ギクッ・・・)い・・・、いや・・・。勘違いだなんてする訳が無いじゃないか、嫌だな兄貴は。」
きっとこれが「図星」という奴なのだろう、顔を蒼くしたイャンダはベルディに心中を探られ焦りの表情を隠せなくなっていた。
ベルディ「まぁ良いか、別に明日開店する訳じゃ無いから今からでも見て来ると良い。」
イャンダ「勿論だ、その為に帰ってきた様な物だからな。」
ベルディ「おい、やっぱりお前勘違いしていただろう?」
改めて顔を蒼白させたイャンダは兄には決して嘘をつけない事を心の片隅にずっと留めておく事を誓った、いやどちらかと言うとただ弟本人が嘘をつくのが下手だという事を忘れてはいないだろうか(まぁ、どうでも良いか)。
それから急いで作業を済ませたイャンダは1人旅館のフロントへと移動してそのままの勢いで静まり返っていた新店舗へと入って行った、確かに旅館側の出入口とは正反対の場所に「店内飲食専用出入口」の文字と自動ドアが存在していた。どうやらイャンダは大きな勘違いをしていた様だ、と言うか何処のホテルでも店内飲食だけの店なんてよく見かける事だろうがまさか・・・。
イャンダ「何てこったい!!うっかり旅館の宿泊客だけが食べに来ると思ってた!!」
あのさ・・・、冷静になって考えてみろよ。今になって言うべき事じゃないかも知れないが純和風の温泉旅館に宿泊するお客さんが楽しみにしている事と言えば大体「大きなお風呂」か「旅館から出る豪華な料理」だろうが、酒の〆でも無い限り拉麺なんて食わないと思うけどな。
イャンダ「そうか・・・、冷静に考えたらそうだよな・・・。宿泊するお客さんが食べたい物って言えば大体和風の鍋や刺身の乗った御膳料理だよな、それに外からのお客さんがいないと大した売り上げにならないもんな。」
おいおい、先にそういった内容の発言をした俺も俺だが流石にそれは失礼じゃ無いのか?やっぱり温泉旅館に泊まるお客さんはそれなりにお金を持って来る方々が多いと思うんだが違うのか、それに「十人十色」って言葉もあるだろうが。拉麺を欲しがるお客さんが全くもっていないとは言った覚えは無いぞ、そこは店長としてしっかりとしていないといけないんじゃないのか?
イャンダ「うーん・・・、万年平社員のあんたに言われるのは癪だがその通りだな。どんな人でも店に来て下さる大切なお客さんだ、大切にしなきゃだな。あんたって偶に良い事言うんだな、ありがとうよ。」
何だよ、恥ずかしいじゃねぇか。大した事を言ったつもりはねぇから礼には及ばねぇよ。
本当に大丈夫か?




