357
緊急事態か?!
-357 明かされる(カミングアウト)-
静まり返った「秘密部屋」でピューアが箱を開けた音に気付いたイャンダは急いで階段を駆け上がった、しかし生地の擦れる音とニクシーの鼻歌を聞いて「ある2つの重要事項」を思い出して出入口の数段手前で立ち止まった。
イャンダ(小声)「おっと・・・、やべぇ・・・。」
まずは「この出入口を出た場所が浴室の脱衣所だという事」だ、付き合いだして間もなく手もつないだ事が無い自分がピューアの着替え(下手すれば裸の姿)を見て良い訳が無い。しかし女性と言えど相手は上級人魚であるニクシー、水着姿(若しくは裸の姿)なんて見られ慣れているのではと一瞬考えてしまったが・・・。
イャンダ(小声)「んな訳ねぇだろ、人間として駄目だよ!!」
もう1つは「兄弟だけが知る秘密部屋の存在がバレてしまう事」である、嫌らしい物を隠しているなどと言ったやましい理由などないから一瞬「大丈夫か?」と自問自答したがよく考えれば恋人や義理の姉からの信頼を失う上に覗きの疑いをかけられてしまう。
未だに今いる出入口から数段降りた場所から動けないでいるイャンダが息を潜めていると脱衣所から別の女性の声がして来た、義理の姉であるエルフ・ネイアだ。
ネイア「あらピューちゃん、似合うじゃない。それどうしたの?」
完全に女将の持ち物と思っていたニクシー。
ピューア「え?!これって女将さんの服じゃ無かったんですか?!」
ネイア「私が?そう言った服は持っていないどころか着た事も無いよ。」
ピューアが女将の返答に焦りの表情を見せる中で女将の「似合っている」という言葉を聞いて恋人がしっかりと服を着ている事を信じたイャンダは恐る恐る脱衣所を覗き込んでみた、本人が捨てようとした服を着たニクシーは想像以上に似合っていた様でイャンダは胸を撫で下ろした。
イャンダ(小声)「ああ・・・、良かった・・・。」
そんなに不安になっていたなら覗き込まなきゃ良かったのにと傍らから見ているだけの俺が思う中、ネイアはゴスロリ衣装を着たままのピューアを連れて台所へと帰って行った。
ネイア「折角のお茶が冷めちゃったかもね、温め直さなきゃ。」
ピューア「すみません、私が遅くなった所為で。」
ネイア「良いのよ、可愛い服を見かけたらつい着てみたくなっちゃう気持ちは私にも分かるもの。」
何の問題も無く女性達がその場から遠ざかって行った事を確認したイャンダは「秘密部屋」へと急いで戻り、兄・ベルディへと事の成り行きを報告する事に。
イャンダ「兄貴まずいよ、ピューちゃんが「あの服」を着て行っちゃったよ!!」
ベルディ「マジか、ふふふ・・・。」
イャンダ「何だよ、その不敵な笑みは。」
何か面白い事でも思いついたのか、それともただのやけくそなのかが分からない笑みを浮かべる兄は「秘密部屋」を出て階段を先程のイャンダ以上に勢いよく駆け上がるとお茶の香りを頼りに女性達のいる台所へと直行した。
ベルディ「はぁ・・・、疲れた。ネイア、俺もお茶貰って良い?」
ネイア「良いけどあんた、今の今まで何処で何をしていたんだい。」
飽くまで白を切るベルディ。
ベルディ「イャンの手伝いをしていたんだよ・・・、ってあれ?そう言えばピューちゃんが着ているのってあいつの服じゃない?」
ネイア「イャンの?どう言う事?」
ベルディ「ちょっと待ってね・・・、確か俺の部屋に・・・。」
何も知らなかったフリをするベルディ、演技だとバレていないのが不思議で仕方が無い。
そんな中、旅館の旦那は古いアルバムを開いて見せながら「あの事」を話した。
ベルディ「ほらこれだよ、似合っているだろ?クラスの女子達から人気だったんだぜ。」
ピューア「やだぁ・・・、私より似合うんじゃないんですかぁ?」
それから数分間、台所は爆笑に包まれていたという。何と言うか、平和だな・・・。
ただイャンダ、可哀想・・・(笑)




