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平和なままに話が進めば良いんだけどな
-356 嬉しい気遣い、余計な気遣い-
急須の中で開いた茶葉により台所全体にお茶の優しい香りが広がる中、女将・ネイア(エルフ)は弟の連れて来た恋人・ピューア(ニクシー)による自分への心遣いが嬉しかった様だ。
ネイア「お花畑ならここ出て左にあるはずだよ、今はラベンダーが綺麗に咲いていたはずさ。因みに廊下はぐるりと回れるから別の方向に行ってもここに戻って来れるからね。」
互いに種族は違えどそこは女性同士、「気遣い」には「気遣い」で答えるのもまた一興なのかも知れない。因みにお手洗いにはラベンダーの香りがする芳香剤を置いているのでそれを目印にしてくれればという気持ちが込められているとの事。
そんな中、イャンダが自らの「汚点」の原因と言える品の入ったダンボール箱を隠し扉の前へと置いて再び階段を降りていくと部屋の中でベルディがあからさまに落ち込んでいた。
イャンダ「兄貴、勘弁してくれよ。今でも思い出すだけで熱が出そうな気分なのに。」
弟の言い分も分からなくもない、本人は着たくて着た訳では無くて言ってしまえば「被害者」に当たるのだ。ただよく見れば気になる点が1つ、気の所為だと良いのだが・・・。
イャンダ「おい兄貴、手に持っているそれは何だ。」
兄弟だけが知る「秘密部屋」で小刻みに体を震わせる兄が両手で大切そうに握りしめている物を見て弟は頭を抱えていた、、ベルディの両手には『アイテムボックス』から取り出したと思われるデジタルカメラが。
ベルディ「イャン、捨てる前にもう1度着てみる気は本当に無いのか?」
涙ながらに訴えて来る兄、その表情からこの質問は冗談交じりでは無い事が伺える。
イャンダ「あのな・・・、こんなおっさんのゴスロリ姿なんて誰が見たいと思うんだよ!!想像するだけで吐き気がするくらいに気持ちが悪いわ!!」
ベルディ「いやいや、世界は決して狭くは無いから分からんぞ?もしかしたらこう言った趣味を持っているお客さんだって来るかもしれないじゃないか、今が「多様化の時代」であるという事を分かっているかね。」
あの・・・、話の腰を折る様で悪いんだけど高速道路で3国全てが結ばれている状態なんだから十分狭いと思うんだけどな。それに今の今まで女装趣味を持ったお客さんがこの旅館に宿泊した事があったのかい?
ベルディ「確かに見た事は無いけどこれからは十分あり得るかも知れないだろ?」
凄く熱の籠った発言をしてくるな・・・、それに免じて今の所は一応「可能性は無くは無い」という事にしておこうか・・・。
イャンダ「おいおい、あんたまで勘弁してくれよ!!」
でもねイャンダ君、多少と言えども君の学生時代にはニーズがあったんだから限りなくゼロでは無い事も頭に入れておくんだな。わ・・・、悪い事は言わんぞ?(笑)
イャンダ「もう・・・、悪ふざけが過ぎるぞ!!やっぱり捨てる、決めたからな!!」
あらら・・・、ここまで来ると誰が何を言おうと聞かんな。お兄さん、諦めましょうよ。
ベルディ「そうだな・・・、仕方が無い。」
ベルディが愕然とする中、お花を摘み終えたピューアは先程ネイアから聞いた言葉を頼りに今いる居住部分を少しだけ探検してみる事にした。「これから自分の家の様に過ごす場所なのだから何処に何があるのかを十分に把握しておく必要がある」と思ったからだ、折角の機会を逃す訳にはいかないと思うニクシーがうろちょろしていると目の前に風呂場が出現した。そして脱衣所の隅にあの「ダンボール箱」が・・・。
ピューア「何だろう・・・、「封印」って書いてある・・・。」
ただ不自然な点が1点、慌てて封をしたのか箱が少しだけだが開きかけていた。これでは十分に「封印」したとは言えない、「1度開いて封し直してあげよう」と箱を開けると中には当然の様に例の「ゴスロリ衣装」が入っていたのでピューアは興味本位で取り出してみる事に。
ピューア「へぇ、結構良い生地使っているみたいね。誰の物だろう、女将さんかな・・・。」
そうだと良いんだが・・・。




