355
よっぽど嫌な思い出だった様だ
-355 危機迫る-
懐かしい思い出に浸り顔をニヤつかせる兄により強めのため息をついた弟は『アイテムボックス』から引っ越し用に使っていたガムテープを取り出して引っ張り出したダンボール箱を封する用に使用した、そして辺りを見廻して新聞の折り込みチラシを数枚程見かけたのでその内の1枚に大きく「封印」と書くと勢いよくその箱に貼り付けた。
イャンダ「これでよし・・・、と・・・。」
一安心するイャンダの隣で落ち込んだ表情をするベルディ、大切に保管していた物を一瞬にしてゴミに変えられてしまった事がよっぽどショックだったと見受けられる。
ベルディ「折角取っておいたのに・・・、そうやって捨てる前に1度着てみれば良かったんじゃ無いのか?」
イャンダ「あのな・・・、兄貴は俺の「汚点」を増やすつもりなのか?!勘弁してくれよ!!」
誰にだって忘れたくても脳内にへばりついてなかなか離れない記憶はあるものだ、イャンダにとって魔学校時代の学祭がそれだった様で・・・。
イャンダ「一先ずこれは明日が「燃えるゴミの日」だから朝一番に出すからな、全く・・・。」
捨てるのを忘れない様にする為、封じたダンボールを抱えて先程降りて来た階段を昇るイャンダ。入り口となっている隠し扉の横にダンボール箱を置いた後、階段を再び降りて行った。ただ、重要な事を忘れている事を知らずに。
封印したダンボール箱を隠し扉の前に置いて階段を降りたイャンダが一安心した表情を見せた一方で、新たな部屋に持って来た荷物の大半を降ろしたピューアをネイアが気遣っていた。
ネイア「ピューちゃん、ここ2階だから荷物運ぶの大変だったでしょ。」
ピューア「大丈夫ですよ、好美の店で荷物運びをしていた事が多々あるので慣れているんです。」
店で使用する為に仕入れた食材の搬入をちょこちょこ手伝っていたピューアにとって引っ越し作業など朝飯前だった様だ、俺が思ったよりは腕力が備わっているらしい。
ネイア「でも結構汗をかいただろう、バルファイ王国は他の国よりも気温が高いからね。」
国の大半を砂漠とビル街が占めているからか、やはり日中の気温が高いのも事実。これは店で提供するメニューを色々と思案しなおす必要があるのかも知れない、まぁ今は引越しの方に集中すべきなんだろうけど。
ピューア「そうですね・・・、ちょっと喉が渇いて来たので水分を頂いても宜しいですか?」
ネイア「勿論だよ、私も一休みしようと思っていたから良かったら一緒にどうだい?」
旦那が「秘密部屋」で弟の事を笑っている間も旅館のフロント等でずっと接客をしていた女将、腰を下ろしてお茶でも飲みたくなる気持ちも分からなくもない。
ピューア「勿論です、実はある物を持って来てまして・・・。」
するとニクシーは『アイテムボックス』からお茶菓子として買っていたお徳用の割れ煎餅を取り出した、その名の通り製造工程で割れていたりする煎餅だったが味は変わらないしすぐ食べる用だったので客に出さない限りは何も問題は無い。
ネイア「あらま、たっぷり入って良さげじゃないか。何か申し訳ないね。」
ピューア「いえいえ、これからお世話になるって言うのにこんなのしか持って無くて申し訳なくなるのはこっちですよ。」
ネイア「何を言っているんだい、見ての通り私おちょぼ口だからこれ位の大きさが丁度良いんだよ。それに色々な味の御煎餅が入っていて美味しそうじゃないか、それに似合うお茶があれば良いんだけど・・・。」
ピューアを連れて台所へと向かった女将は戸棚からお茶の葉を取り出してお茶の準備をする事に、一先ず急須にお湯を入れて温めていく。
ピューア「結構本格的なんですね。」
ネイア「何言ってんだい、折角の御煎餅だから美味しく頂きたいじゃないか。」
どうやらピューアが持って来た御煎餅の事をかなり気に入った様だ、そして台所全体がお茶の香りに包まれていく。
ネイア「そう言えばうちの男どもは何をやっているんだろうね、折角お茶が入ったのに。」
ピューア「良かったら私見て来ましょうか、丁度今お花を摘みに行こうと思っていたので。」
まずくね?




