㉟
母との会話の中で安心感と疑念が交錯する守。
-㉟ 何で呑もうか-
母との会話の中に聞き慣れた名前が並んでいたが故に少し安心感を持った守は、やはり自分が今いるのは異世界なのかどうかを疑ったが目の前に立つ人魚や職場にいるライカンスロープ、そして自分の初恋の人の結婚相手のヴァンパイアの事を思い出して改めて自分が異世界にいる事を実感した。しかし、やはり元の世界と変わらぬ姿で母親が目の前に佇んでいるので夢を見ているのかと感じた守は頬を抓って現実かどうかを確認した。
守「いて・・・、いてて・・・。」
真希子「馬鹿だねこの子は、夢でも見っているとでも思ったのかい?」
守「だって元の世界じゃ有り得ねえ話だろ、死んで目の前からいなくなった母ちゃんや恋人、そして(普通に人の姿をしているけど)人魚と酒を酌み交わしているなんて夢にも見ない事じゃんかよ。」
こっちの世界に結構経っているはずなのだが、やはり好美や真希子に比べて短いので2人からすればまだまだ初心者に近い存在なのだろう。
真希子「言いたい事は分かったから呑むよ、ビールのお代わりはあるんだろう?私も貰っても良いかい?」
守「母ちゃん、さっきの酒はどうしたんだよ。」
確かに先程『瞬間移動』してきた時は一升瓶を片手に持っていたはずなのだが・・・。
真希子「あんなのただの水じゃないのさ、もう無くなっちまったよ。」
守「母ちゃん、いくら女将さんがいないからってこっちの世界で羽目外しすぎていないか?」
元の世界にいた頃、毎日の様に「松龍」に入り浸って呑んでいた真希子は家に帰れなくなってはいけないという配慮から王麗によく酒を制限されることが多かった。
真希子「何を言ってんだい、あっちの世界にいた時はずっとあの子の捜査の手伝いをしてやってたんだよ、それなりに礼を貰う権利位はあるはずだけどね。」
2人に関する逸話を知っているが故に否定がしづらかった守、幼少の頃から美麗とよく遊んでいて仲が良かった所以はきっとそこだったのだろうと強く実感した。
そんな中、元の世界での、そして過去の思い出話が続いているのでつまらなくなったマンションの大家や人魚は少し離れた所で呑み始めていた。
好美「何よ、2人だけで盛り上がっちゃってさ。」
ピューア「良いじゃないのよ、親子水入らずってやつよ。私達は私達で楽しもうじゃないのよ。」
好美「嫌だ!!私は守とピューアの作ったおつまみで酒が呑みたいの!!」
やはり好美がドケチで我儘なのは相も変わらずだ、しかし守とピューアが調理を始めようとしてから結構経っているのに1品も出来ていないのは事実なので2人には早くして頂けたら助かるのだが・・・。
ピューア「急かさないでよ!!と言うかあんた誰よ!!」
守「また出てきやがったな!!生意気言ってないで姿を現しやがれ!!」
好美「それと何回私の事をドケチって言ったら気が済む訳?!」
あら、またマイクが故障したな・・・。こりゃ修理出さなきゃ・・・、すんません・・・、何も気にせずごゆっくりお過ごし下さい・・・。
ピューア「何よ今の・・・、一先ず有り物で何か作ろうかな・・・。」
好美「あまり覚えて無いけど、冷蔵庫の中身何でも使ってくれても良いから。」
ピューア「冷蔵・・・、この魔力保冷庫の事かな・・・。取り敢えず開けてみるか・・・。」
冷蔵庫の中を確認して驚愕した人魚。
ピューア「何よこれ、酒以外何も入っていないじゃない!!」
好美「あれ?それじゃ覚えて無いはずだね、買いに行かなきゃ。」
好美の言葉を聞いて最初に動いたのは真希子だった。日本酒を一升呑んだ割には、意識はまだほろ酔い状態でいた。
真希子「何もないのかい、じゃあ私が人肌脱ぎますかね。」
守「母ちゃん、何か策でもあるのかよ。」
真希子「母ちゃんの家はここの1階下だよ、どんな物でもすぐ持ってこれるさね。」
母の言葉に嫌な予感しかしなかった守・・・。
何故か信用されていない真希子。