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イャンダって優秀な奴のはずなんだがな・・・。
-351 放っておけない-
ピューアがイャンダに思いを寄せていた事は「暴徒の鱗 ビル下店」の従業員間や中心街界隈等でもう既に有名となっていた話だったが、その上級人魚の想いにやっと気付いた元竜将軍に対してその場にいた全員が「今更かよ!!」とツッコミを入れたくなる位だった事は正直言って予想通りだなとため息が出てしまう程だった。
ひょんなきっかけでイャンダがピューアに告白した夜が終わってから数日経った後、遂に2人が改築を終えた新店へと異動する日がやって来た。
デルア「ピューちゃん、この前も言った通りなんだがイャンはかなり鈍感だから新しい場所での生活や新店での仕事にちゃんと対応出来るか正直心配なんだよ。こいつの事を任せても良いかい?」
「ビル下店」の調理場奥にある小さな部屋で旧店長の右肩に手を添えながらピューアに優しく声をかける新店長、ただこの事に関しては旧店長も黙っていない。
イャンダ「別に初めて行く訳じゃ無いんだぞ、新しい設備にも一通り目を通しているから心配すんなって。」
デルア「そんな事言って・・・、まさかと思うが自分が極度の機械音痴でここのレジを使いこなすまでにどれくらいかかったか忘れたってのか?好美ちゃんが店長を替わろうか悩んでいた位なんだぜ。」
ピューア「そうなの?初めて聞いた。」
折角の機会だと思ったデルアはイャンダと出逢ったばかりの頃の事を語った、「ビル下店」新店長によるとイャンダはバルファイ王城の調理場で気分を変えようと小さなラジカセを取り出して音楽を流そうとしていたそうなのだが10分程経過しても全くもって音が流れなかったという。心配になったデルアがイャンダの懐をよく見ると、カセットテープとラジオしか使えない機械でCDやMDを流そうとしていたので流石に止めたそうだ。
デルア「本当に申し訳ないけど、あれはガチで笑ったわ。差込口が見つからなくてカセットテープの所に無理矢理MDを入れようとしていたんだもんな。」
イャンダ「止めろよ、今でも忘れる事の無い汚点なんだから。」
デルアの語った思い出話に顔を赤らめるイャンダ、よっぽど恥ずかしい経験だったんだろうなと推測される。
元竜将軍達が思い出話に花を咲かせる中、俺はここ数日間におけるイャンダの行動を思い返していたが新店に設置された新しい設備に目を通している様な場面は無かった様な気がする。
ただ確かに取扱説明書を読み込んでいる事はあった、しかしまさかと思うがこれだけでで「慣れた」と言っているのだろうか。ただ傍らで見ている俺が言って良いのか分からないが余程の天才でも無い限り、全てを網羅してありとあらゆるお客に対応出来るとは思えない。
今から考える事かどうかは分からないが店内で着席して食事しているお客のみではなく、マンションの住民からやってくる出前の注文に対応している「ビル下店」に対して新店におけるお客の大半は宿泊客と思われるので比較的小規模では無かろうかと推測できる。
しかしそこは新店、小規模だからと言って舐めてかかると痛い目を見てしまう。
翌日、今までもそうだった様にこれからも貝塚財閥(結愛)と友好的に連携をしていく為お互いの売上に貢献していこうという好美の配慮により貝塚運送(美麗)のトラックで引っ越した2人はベルデイ夫妻により旅館の居住部分へと案内された。因みに周囲から『瞬間移動』や『アイテムボックス』、そして『転送』といった能力で行えばすぐに終わるんじゃないのという意見がちらほらと出てきたが念の為オーナーに従う事にした様だ。
ただ1つ、ベルディの妻であるネイアには疑問が生じていた。
ネイア「あのさ・・・、私が気にするべきじゃないかもだけど2人は一緒の部屋に住む訳?」
同時に異動・転居して来たと言っても2人はまだ付き合い出してから間もない、流石にいきなり同じ部屋でという訳にはいかない。
イャンダ「お義姉さん・・・、えっと・・・。」
ネイア「何よ・・・、彼女の前なんだからしっかりしなさいよ。」
義理の姉である女将に強く背中を叩かれながら突然の質問に顔を赤くしたイャンダはおどおどしながら考え込んだ、きっと自分の返答次第でこれからの人生が大きく違って来てしまうと思ったからではないだろうか。
イャンダ「いずれは2人で一緒に住もうと考えています、しかしまだお互いにより一層の信頼関係を築いてからでないとと思うので今は別々でお願いします。」
勇気を振り絞って返答したイャンダ、しかし放った言葉は兄によって打ち砕かれた。
ベルディ「意地悪な事を言うなよ、お前だって1部屋しか空いていないの知っているだろ?」
おい、緊張感を返せ!!




